第17話 我は創造神

文字数 1,199文字

 次の作業日には田や畑など、地主宅の更に右方向へ進む。まずは紙粘土で畦道(あぜみち)や水路の土手を形成する。畔道で囲ったところにカットした人工芝を入れる。多少サイズが合わなくとも、紙粘土なので埋め合わせは簡単。形を決めて、一旦人工芝は外し、紙粘土の乾燥を待つ。未舗装道路は、紙ヤスリがよい。これを適当に切って、並べてみる。いい感じだ。カーブレールの向こうに作る畑は、段ボールの表面を剥がしたものを使う。盛り上がった直線の列で畝が再現される。これらの物品利用に関する知識は、小学生時代のまま。執念の記憶である。畑にも紙粘土で周囲を形取り、いったん外す。エンドレスの内側にある田んぼからカーブ外の畑に未舗装道路を延ばすことになったので、踏切を設置する。が、ここは遮断機なしでいこう。田舎らしい景色ができそうだ。
 しっかり乾かないと着色などには進めない。まだ空白地帯である駅から正面にあたる長方形の頂点付近、すなわち畑予定地よりも向こう側、レールの外側にあたるところに作るものを考える。田畑に引かれるべき水路の水源があってしかるべきなので、森林と川を作ることにした。また発泡スチロールやティッシュペーパー、紙粘土を使って形を作っていく。川は線路より低いはずだが、紙粘土で盛り上げておいても遜色はないだろう。畔などの田畑の区画、少し隆起した森林、そして川。真っ白でよく分からない状態であるが、これらが一晩にして出現した。手を洗ってもこびりついている木工用ボンドや紙粘土を眺め、ほくそ笑みながら眠りにつく。創造神は手を汚すものなのだ。

 次の作業日は二週間ほど後だったろうか。紙粘土は乾燥した時に割れたり()がれたりすることがあり、それを修復しながら畔を塗る。未舗装道路は接着していいだろう。畑になるはずのむかれた段ボールも赤茶色に塗り、人工芝とともに接着する。もちろん塗装はアクリル絵の具だが、ベタっと一色のアニメ塗りは禁物だ。土の状態を想像しながら微妙に色を変えるのだ。この辺りが大人だな、と一人悦に入る。森林は茶色ベースで着色し、後日植林していくことにする。そして水路だ。水面の色には特にこだわりがあり、青系だけで四色ほど揃えている。パレットの上で白色も含めて混ぜ合わせながら、ちょっとずつ塗っていった。

 そして、メインの川。だが、そこで思った。ここは子どもたちと一緒に塗ることにしよう。共同作業にして、彼らの興味を引き続けるのだ、という下心も急成長した。早速ガラケーで写真を撮り、妻に送信する。数分後に電話をかけ、一緒に塗るから色を考えておいて、と息子と娘それぞれに伝えた。息子は、自分がレイアウトを触って良いのか? と(いぶか)し気の様子だが、娘は無邪気に喜んだ。破壊神たる彼女が喜んでいるのは、少し不気味だったが、しっかり監督すれば問題ないはずだ。そうなると植林は延期だ。絵筆が植物に触れてしまうことは避けねばならない。
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