第13話  出発進行!

文字数 1,197文字

 ここまで来てようやく、レール表面を覆っていたマスキングテープを全面的に剥がしていった。ストラクチャーや小物と接触させないためのテスト走行は一部で行っていたが、その都度テープは貼り直していた。まだまだレイアウト作成は続くが、レール表面を最も汚しやすい工程は終えたのだ。そしてバラストに囲まれた土台に開く穴に、架線柱を差し込んでいく。理想の、架線柱がしっかり並んだレイアウトである。周辺の状態は当面の間工事中だが、これで子どもがこちらに来た時には列車を走らせることができる。喜ぶだろうなあ、と僕の頬も緩む。ああ、ビールが旨い。

 そしてその日がやってきた。いつも以上に早く着かないかなあ、と待ち焦がれる。車の音がする。玄関に向かうが、こちらがやる前に扉が開く。「おとーさんっ!」と飛びついてくる。順番に抱き上げる。この頃は息子も娘も、とにかく会うのが嬉しいという態度を全身で表していたよなあ。と今や懐かしい。
 息子の方がやはりレイアウトには関心があり、どうなった? と聞いてくれる。父親想いのよい息子である。レイアウト部屋に行き、こうなったよ、と見せる。駅があるね、と喜びつつ、まだ他に何もない、とのダメ出しも忘れない。しかし、駅の存在は明らかに彼を刺激した。すぐに走らせよう、ということになった。

 駅ホームの少し先、レールの上にピタリとリレラーが収まる。その黄色い滑り台を、ローズピンクのEF八一がゆっくりと下る。手でポイントを盲腸線側に切替え、運転制御器のツマミを回す。動いた。ローズピンクの機関車を卵円形のエンドレスに入れ、電源車から順に、二十四系二十五形寝台特急客車ブルートレインを五両、次々と流していく。モーターのない客車たちは、軽快にリレラーを滑り落ちる。Nゲージの車両は多くの場合、アーノルドカプラーという世界標準の連結器を装備している。これはフック型で正面からぶつけていくと簡単に連結できるというスグレモノだ。このカプラーのおかげで、世界中の模型が混結できてしまう。だがもちろん、リアリティーには乏しい。最近の車両はメーカーごとによりリアルな連結器を付けていることが多いのだが、詳細は別途お話しさせていただこう。そして全六両となった我が「日本海」を前進させ、最後尾までエンドレスに引き込んだ。リレラーを外し、ポイントをエンドレス側に切り替える。いよいよ、出発進行である。

 何周かさせ、逆走させたり、ポイントを切り替えて駅に到着させたりということを繰り返した。時々レールのつなぎ目で列車が止まるが、何周かさせると問題はなくなった。もちろん、ストラクチャーなどとの接触はない。やがて車両を四五七系に替える。七両編成だ。自分に記憶のある時代、既にこの急行列車には食堂車は存在していなかったが、ここでは全盛期の姿が再現できる。しばらくして、やはり思ってしまった。更に別の編成が欲しいな……。
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