第20話 春の焦燥

文字数 1,144文字

 悩みどころではあったが、レイアウトボードの内側から外に向かって作っていく方がやりやすいので、先に③④(第19話参照)を作っていくべきだと判断した。③は駅に向かう盲腸線とエンドレスの分岐となるポイントの傍でアパートの間あたり、である。駅のすぐ近くではあるが、駅舎の出入り口は反対側にあり、使い勝手の悪い土地である。こういうところは雑草に覆わせて、「○○建設予定地」と看板を立てたり、駐車場にしておくのがそれっぽいかもしれない。しかし、一方で既に購入している人形群に含まれている、子どもも活用したい。そう思って、アパートの子どもたち向けの公園を作ることにした。線路との間には背の高い柵を設けることにする。探してみると通販MNがちゃんと扱っている。地面は牧場と同じカラーパウダーを基調とすればよいだろう。半球型の遊具を置き、ここで親子連れが遊んでいるような様子を作る。うちの子たちがみたら喜ぶかな、と想像し一層ワクワクしてきた。
 そして④。牧場正面から延びる直線道路の右、木造アパートとの間にある半端な空き地だ。ここもそのまま空き地としてしまおうかという誘惑に駆られたが、ふと思いつく。地主宅を流れる水路の行先がない。地下に潜ったことにしていたが、この用水は自然にあったものを活かしたことにして、その先に池が湧いているという設定にした。もともとは川がつながっていたのかどうかは、不問。とりあえずここに水があれば、見てくれもよいし下手に開発できない場所として置いておかれたことにできる。ということで紙粘土で成形し、着色。青色、緑色、白色を駆使して水面を表現。乾いたらプラモデル用ボンドを塗って光沢を出す。ここだけなら模型店Pのレイアウトにあった池よりリアルだな、と一人悦に入る。そして池の周りは植物を多めに配置。こういう場所は神社になっていそうだよな、と思ったが、鳥居などを置けるほどのスペースはないので、断念した。

 ③④が完成した頃には春を迎えていた。僕は単身赴任が終わるよう職場に働きかけていたのだが、家族の住む町への転勤が実現しそうになった。嬉しいのだが、焦りが生まれた。そう、レイアウト完成に向けた期限ができてしまうかもしれないのだ。例え向こうに置き場を確保できたとしても(いや、せねばならない)、今までのようにのんびり作業を進めるゆとりは絶対になさそうだった。レイアウトが完成していなければ、結局粗大ごみの認定を受けそうだし、引っ越しの時に運ぶ許可がおりないかもしれない。これではガンプラを捨てられて喜んでいた後輩と同類である。急ごう。しかしそういう目でみると、残りの空白地帯①②(第19話参照)はあまりにも広い。駅から見て反対にある、未着色の川も雄大過ぎる。時間を作らねばならない。
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