第24話 ラストスパート

文字数 1,187文字

 夏はとっくに過ぎ、秋を越え、年末になった。ボーナスを経ているので車両も増えている。お気に入りは湘南色の一一五系三両セット。先頭車の、貫通幌(かんつうほろ)付近にはオレンジ色と緑色の境目がある。このオレンジ色が優しいカーブを描いているのだが、これぞ昔からお気に入り。小学生の時、最初に買ってもらった車両は同じ湘南色でも一一三系。あれはその部分が角ばっているのだ。子どもの頃問題にしていたのは単に塗装の件だったが、実車についていえば、一一五系は寒冷地や勾配のある路線で使用できるタイプである。なので、重厚感もある。もう一つは九州で活躍する八一七系。黒基調の車両は美しい。これは子どもの頃に走っていた訳ではないので、大人になっても実際の車両に恋しているという証拠の品だ。尚、ジェーアール九州の車両は総じて斬新。これらを動かして遊びつつ、レイアウトの作成を急いだ。

 忘年会の頃までには転勤が本決まりし、年度末には引っ越しということになった。忘年会までには和解していたが、例の先輩とは別のチームで芸に臨んだ。有終の美は飾れなかったが、結構ウケたとは思っている。

 年が明け、正面左の空き地は基本的に道路の延伸で対応することを決めた。もちろん平坦なものではなく、斜面を上がるような道。つまり丘をここにも作る。道路の周辺は、自然公園のようなものにしようと思いつく。この街には公園が多いなと感じたが、自分には、そういう街に住みたいという意識がある訳だろう。
 他の丘よりも一段多めに発泡スチロールを積み、紙粘土で段を埋めていく。ここは道路になるので、きれいに整地すべきである。もっとも画用紙の道路を貼るので、誤魔化しはある程きく。なんとかなるだろう的な真剣度。結構心地よい。乾燥後はいつものように着色。この道路から見て奥側の斜面には未舗装の公園を作り、ペーパーストラクチャーのブランコや滑り台を置いた。楽しそうだな。丘の下に数台は停められる駐車場を、これは舗装されたという設定で着色し造成する。もちろん遊んでいる親子の人形も忘れない。道路との間には木々を植え、ライケンで茂みをつくる。少し引き込みの道路を延ばし、例のプレハブ小屋を置いた。公園の管理事務所だ。これで三つ同じ小屋を使った。この街におけるシェア百パーセントメーカーだ。その後、アパート周辺に刺したものとは別の街灯を設置し、コンビニのある交差点には自動車・歩行者用の信号機も設けた。

 転勤前で引継ぎだ送別会だと慌ただしい中、今まで以上にレイアウト作成に時間を割くことになった。充実とはこのことであったが、残念ながら家族との時間は減っていた。まあ、ここを我慢すれば、一緒に暮らすことになるのだ。そうなるとレイアウトに費やす時間は激減する。つまり今しかない。どこか矛盾がありそうな自分の気持ちを抱えながら、三月初旬には概ね完成と言ってよい状態になった。
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