第6話 撒き初め

文字数 1,196文字

 新型ウイルスが騒がれるより前、ココイチはツボな漫画を揃えて僕を待っていた。カレー一杯に対して漫画五冊が僕のルーチンだった。五辛でないと食べた気がしないのだが、かえって食が進む。早く食べ終わってしまい、漫画の時間が増える。が、この日から僕は変わった。カレー一杯に対して二冊で終了。ここで時間を使っている暇はない。
 もちろんハフハフとカレーを口に入れつつも、ハンドルを握りつつも、思いついては取り消して、と頭の中は動いている。ボケ防止にもよいな。この先一生付き合っていこうとも思う。
 帰宅するともう九時を回っていた。レールを固定したボードを眺めながら、家族に電話した。お休みを言って、僕もその部屋を出る。自制する大人なのだ、僕は。


 日常生活というのは面倒だ。ボードを毎日眺めることができるのだが、次の作業になかなか入れない。酔っ払ったり、余りにも疲れているような時には触らないようにした。この時に不注意で壊してしまったら、絶対に後悔する。また、仕事の呼び出しがありそうな日も触らないように心がけた。作業の途中で放り出すのを避けたかった。この時点で、既にレールの回りのみならず、その他の景色も再現する気満載になっている。もう止まれないのだ。

 一週間以上経ったある日、僕は速攻帰宅し、さっさと夕飯、洗い物を済ませた。まだ七時前だ。そう、今日こそは、続きをやるのだ。記念すべき、撒き初めだ。
 まずはレールに黄色いマスキングテープを貼り、表面を保護する。続いて架線柱の土台、信号機、分岐(ポイント)切替機、排水溝、用水路の蓋などを配置し、これも木工用ボンドで固定していく。プラスチックと樹脂ボードとの接着になるが、木工用ボンドで大丈夫だ。むしろ乳液型で扱いやすく、小物を綺麗に立たせられる。白いので最初は見栄えが悪いが、乾燥すれば透明だから問題ない。この時忘れてはならないのが、車両がこれらにぶつからないこと。動力源のない三両を繋いで、手で走らせながら位置を確認する。車両を触る前には、指についたボンドをしっかり洗い流しておく。
 続いてこのために用意した小皿に木工用ボンドを絞り落とし、水に溶かす。しばらくこれを馴染ませるために放置し、いよいよレールの両脇にバラストを撒く。少なくとも架線柱の土台の幅まではバラストを撒きたい。そうすると片側一センチ弱。両側だと想定以上に時間がかかる。この小石を撒いておきながら固定しなければ立てかけることができないのみならず、ふとしたことで飛ばしてしまうだろう。なので、まずは四分の一くらいの範囲に撒く。そして水で薄めた木工用ボンドをスポイドに吸い、バラストに垂らす。液体がすっと砂に浸み込んでいく。これが乾燥すれば、バラストの固定は完了する。すぐに乾く訳ではないので、今日は立てかけなくてよいな。と気付いたが、一面全てへのバラスト撒きはやはり時間的に厳しそうだった。
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