第10話 観察する眼

文字数 1,168文字

 職場でのネットサーフィン及びショッピングは禁止されていない(はず)。遠慮なく駅と遮断機・警報機とを物色した。駅は実に種類が多く、探すのが楽しい。後輩が仕事の相談に来た時は一応、画面右上のアンダーバーみたいなこところをクリックして隠しておく。数日考えて、T社系列のジオコレというシリーズにあった短い単線用のホームと小さな駅舎に決めた。全長二十センチメートルで、実際に模型の車両を並べるとたった二両編成でもはみ出してしまう。
 このサイズ感を、子どもの頃から面白く思っている。例えば東海道新幹線の十六両編成をNゲージで再現したら、なんと二メートルを超えることになる。たとえ商業施設内や博物館などでも、こんな長いものをグルグル回して運転できるような広大なレイアウトは難しい。つまり現実の世界はなかなか広くて大きいのだ。コレクションとして、フル編成の車両を揃えたいという気持ちもあるのだが、実際に走らせる、いや連結して並べる場所さえ君の家にはないのだよ。ということで、百五十分の一(新幹線は広軌なので、百六十分の一)であっても、縮小した車両数の編成にしかできないのである。

 駅と一緒に踏切を二セット。舗装板は画用紙で自作するので、それを含まないセットとなると、T堂の一択だった。更に線路回り小物と称される距離標や柵もクリック。ネット販売もいくつかのサイトがある。YやBの元(?)カメラ店なども手掛けているが多くの場合、MNというところを利用した。製品の比較がしやすく、種類も多かったからだ。うーむ、届くのが楽しみだ。高校時代のZ会を思い出す(嘘)。
 ブツが届いてもすぐに開けて並べよう! という訳にはいかないのが社会人の辛いところだ。実際しっかり作業に費やせる日にちは、月に二日あればよいところ。お預け状態で、レイアウトを眺めて妄想するだけの夜が続く。


 この頃、妄想の主題は草原地帯と駅との境界をどのように作っていくか、ということだった。二つの異なる世界が交わる場を現実的に再現したいのである。草原に人が住み、駅が出来た、というストーリーを構想していく。これは小説を作る時と同じ作業だ。それがレイアウト上に表現されるか、日本語の文章になるかの違いしかない。レイアウトは多くの場合、リアリティーを追求することになると思うが、例えばミステリアスな妖怪世界に列車を走らせたって面白い訳だ。

 そうした妄想にはやはり、しっかりした資料が必要である。現実の世界がどうなっているのか、に俄然関心が向かった。線路周辺だけでなく、自然がどのように見えているのかが気になる。生えている植物、建物のつくり、そして地形……。日々の暮らしにおいて、周囲を観察する自らの眼が明らかに変わったことを自覚する。家族のところに行くために車を運転する時も、ついよそ見をしてしまう。
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