彼女が男子トイレから出ていかない

文字数 2,076文字

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映画ノベライズブログ(https://inaba20151011.hatenablog.jp/entry/2019/12/15/093504)


 門平善照は個室でイスに座っていた。

 ドアのすぐそばには、美雪雪音が立っている。

 彼女はドアの陰に隠れたまま、腕を組み、



「リアナが怪奇現象で困ってるらしいわ。助けてくれないかしら?」

「ほほう。それはどんな霊なんだい? タンスの中に隠れたオッサンがいたずらしているのかな?」

「ふざけないでっ!」



 美雪が声を張る。

 反響が大学内の廊下まで響いた。

 洗面所の蛇口から水がポタリと落ちる。



「リアナは困ってるのよ。それを、ちゃかすなんて……」

「……うん。悪かった。でもな。一つ言っていい?」

「だめ」

「いや言うね! ここ男子トイレだからな! あと俺はもうすぐ子供を産むところなんだよ!」



 今度は俺の声が大学の廊下を走っていく。



「産めばいいじゃない。どうせ醜い子なんでしょ?」

「確かに茶色くて臭い子だけどな。お前がトイレの個室のドア開けっぱなしで、それを押さえるように立ってたら、出るものも出ねぇよ! 俺のセクシーショットがさらしものだよ!」

「難産なのね?」

「子供にたとえるのやめようぜ!」



 あまりのつらさに、涙が出てきた。



「早く男子トイレから出ていってくれない? ここは野郎の息子たちの遊び場だぞ」

「リアナの件で一緒にきてくれるのなら、出ていくわよ」

「え~、やだよ。霊能者に頼めよ。大学生に何ができるってんだよ」



 声をしぼめて嫌がる。

 リアナの助けにはなってやりたいけど、怪奇現象はさすがに無理だ。

 一般の大学生が解決できる問題じゃない。



「なら私はここで、あなたが子供を産むまでいてやるわ!」

「えっ?? ちょっと待って。やけになってない?」

「さあ産むといいわ! あなたの肛門から出る音から、あえぎ声まですべて聞かせてもらうから! オスたちが偶然やってきても、私は負けない!」

「わかった! わかった行くよ! もう俺をひとりにしてくれ!」



 顔を両手でおおって、美雪に訴える。

 同じオスにこんな姿見られたら、大学に二度といけない。

 美雪は出ていき、ドアが閉められる。

 出したあとは消臭剤をまき散らした。

 ズボンを引き上げ、洗面台で涙を流したあと、廊下に出る。

 美雪が自動販売機の前にある長イスに座って、缶コーヒーを飲んでいた。



「マーキングはすんだ?」

「いや、流した」

「そう。子供はきっと、強くなって帰ってくるわよ。元気だして」

「浄化センターでろ過されて、汚泥になるから、跡形もなくなってると思うぞ」



 そんなやり取りを美雪とやりながら、彼女の車に乗せてもらう。

 軽自動車なので、山登りはきつかったが、教授の悪口で乗り切った。

 リアナが住んでいる屋敷に到着。

 古い建築構造で、2階建てだが、庭もあってでかい。

 さすが金持ちは違う。

 軽自動車から出ると、美雪の髪がぶわっと舞い上がった。

 自然の風から緑の匂いが流れてくる。

 リアナが屋敷から出てきて、



「あっ、美雪ちゃん、門平君。いらっしゃい」



 フリルのついた服装だ。

 格好に気合が入っている。

 通販で買ったのだろうか。

 美雪がリアナに近寄っていき、



「何その格好! 私のときはパジャマじゃん! オスにこびてんの!」

「わあっ! しっ! しっ!」



 リアナは顔を赤らめて、人さし指を口に当てる。

 仲がいいんだなぁ。

 ほほ笑ましい光景である。

 とりあえず、屋敷内を歩き回りながら、リアナから事情を聞く。

 まず腐敗臭がするとのこと。



「それは悪魔の活動を示しているものよ」



 どこかで資料を読んだのか、美雪が即答。

 あとは時計が3時7分で止まること。

 壁にかけていた絵が振り落とされること。

 地下室があるけど、怖くて入れないこと。

 階段を下り、地下室に入ると、美雪が両目を閉じて胸を広げる。



「何かを感じ取ったのか?」

「ええ。ここで恐ろしいことが起きてるわ」

「どんなことが?」

「オッサンよ。汗をまき散らして、ポールダンスを披露してるわ」

「それほんとに怖いな!」



 美雪の冗談に、マジツッコみ。

 リアナは失笑していた。

 くわしく話を聞くために、おやつをつまむことにした。

 リアナはホットケーキと紅茶を作ってくると、台所に向かおうとする。

 普段は着用していないのか、やけに白いフリルのエプロンをつける。

 美雪が後ろをついて行き、



「私のときは、100円のポテチじゃん! 門平にどんな感情抱いてんのよ!」

「美雪ちゃん、それ持って帰るでしょ!」



 リアナが顔を真っ赤にして言い返す。

 これから恋バナでも始まるのか、それともお菓子をつまむだけなのか。

 時間がありそうなので、屋敷の廊下をうろつくことにした。

 木造の階段はうなるし、ひとり暮らしにしては広い。

 建物も古そうだ。

 俺でも怖くなってきた。



「んっ?」



 誰かが手をたたいた。


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