第1の試練アヒルのおまる

文字数 2,792文字

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 門平善照は規則的な音を聞いていた。

 それはテンポよく動いている。

 両目を閉じているものの、はっきりと音が耳に入ってくる。

 突然ブザーが鳴った。

 飛び起きる。

 見知らぬ部屋にいた。

 壁に設置された蛍光灯が並んで点灯していく。



「うおっ!? おもっ!」



 頭がガクンと前に倒れた。

 何かが乗っている。

 となりには、知っている学生がふたりいた。

 美雪雪音と宮本言左衛門だ。

 あとひとりは、アヒルのおまるがすっぽり顔を隠し、巨乳で落ちるのを止めているので、誰かわからない。

 美雪は頭部についている、おまるを手でペタペタさわり、



「えっ!? 何!? どうなってんの!?」

「あれぇ!? 拙者、家で斬鉄剣の練習をしてたのに、なぜ!?」



 言左衛門も意味がわからないといった感じだ。



「なんですかこれぇ! ぜんぜん見えないですぅ!」



 あっ、声でわかった。

 すっぽりおまるが頭部にはまっている女性は、リアナ恵子だ。

 全員大学の友達だった。

 アヒルのおまるには何か太いものがつながれている。

 金属製の鎖だった。

 ちょっとやそっと、ひっぱってもビクともしない。

 それは前の壁までのびていた。

 嫌な予感がビンビンする。



「誰か! 誰か助けて!」

「拙者の刀はどこじゃぁっ!」

「なんにも見えない! 闇しかないのぉ!」



 友達はみんなパニックにおちいっている。

 キーンと、スピーカーから不快な音が流れる。

 全員黙った。



『ねえ、にいに、ねえね。どうしてここに連れてこられたのか、わかる?』



 スピーカーからかわいらしい幼女の声が響いてきた。

 みんな口を開かない。

 頭が働いていない。



『わかんない? 萌美もわかんない。ねえ、何したの?』



 いや、知らねぇよ。

 逆にこっちが聞きたいんですけど。

 誰かお母さん連れてきて!



『とりあえずゲームをするね! おまるに付いているランプが緑に点灯すると解放されるの! その方法はね……』

「どうすればいいんだ!」

『……う~ん。おしっこ行きたい』



 プツッと、スピーカーから音声が切れた。

 機械音がし、鎖が巻かれ始め、アヒルのおまると一緒に引きずられる。

 壁際には、透明なぬめっとした液体が流れ始めた。

 あの液体をモロかぶっちまう!

 おしっこ我慢してっ!



「その方法はなんだぁっ! ぐおっ!?」



 すごい力で鎖にひっぱられる。

 踏ん張ってもだめだ。

 物言わぬ機械に、人間ごときがかわうはずない!

 美雪は鎖に引きずられながら、



「こうなったら奥義を発動するのよ!」

「奥義って何!?」

「生まれたてのぉぉぉぉぉぉっ、子鹿!!」



 コンクリートの床を破壊して、両手を地面に突っ込んだ。

 お尻を上に上げ、腰を曲げる。

 お母さんのおなかから生まれ、立ち上がろうとしている子鹿を再現している。



「いや床破壊なんてできねぇよ!! どこで修行してた!?」



 絶対にできない方法だった。

 それでも、美雪は鎖に引かれている。

 突っ込まれた強靱な両腕によって、床が破壊されていき、地盤沈下みたいになっていた。

 鎖の力の方が強すぎる!



「野蛮な……拙者の仏の力を見るでござる」



 言左衛門がおだやかなしゃべり方で、皆を諭す。



「おおっ……」



 度肝を抜かれる。

 言左衛門は座禅を組み、指で輪っかを作って、空中に浮いていた。

 その姿はまるで仏。

 すごい……確かにすごいけど……。



「空中に浮いてたら、スムーズに運ばれるだけだろうがっ!!」



 言左衛門はなんの抵抗もなく鎖に連れ去られていく。

 おまるのアヒルがアホ―と鳴いた。



「いやぁっ! 怖いよぉ! なんにも見えないよぉ!!」



 リアナはだめだ。

 おまるがすっぽり頭部にはまってるので、腕で体を抱いて、倒れたまま鎖に引きずられている。

 胸がでかいだけじゃ、この罠から抜け出せない。



「私に力をぉぉぉぉぉぉっ!!」

「助けてぇ! 誰か! 見えないのぉ!」

「落ち着くでござる。皆死ぬのは一緒」



 床を破壊し続ける美雪。

 胸を抱いて転げ回るリアナ。

 空中に浮き悟りを開いた言左衛門。

 全員死ぬ!



「くそぉぉぉぉぉぉっ!! ……あれ?」



 おまるを両手で持ち上げてみると、スポッと抜けた。

 床に落とすと、アヒルが傾き、鎖に運ばれていく。

 アヒルの感情のない目が、俺に別れを告げていた。



「みんなっ! このおまる、簡単に外れるぞ!!」



 犯人の知能指数が低くて良かった。

 ここまでの設備を作っておきながら、細かいところが抜けている。

 完璧だったら、液体まみれになってた。



「えっ? マジ? あっ、ほんとだ!」



 美雪の頭からすっぽりおまるが抜ける。



「なんと!」



 言左衛門もおまるを頭から抜く。

 髪の毛が一緒に抜けた。

 えっ? カツラ?



「抜けない! 抜けないよぉ!」



 顔まで漬かっているリアナは厳しいようだ。

 美雪が手伝ってやろうと近づき、



「しょうがないわね。あっ? おっぱいでかいから抜けないわ。おまるがひっかかってる」

「きゃうっ!? もまないでっ!」

「こんなときに、何言ってんのよ? 男ども! 力強くもんでやるのよ!」

「いやああっ! 美雪ちゃんだけでやって! 強くやってもいいからっ!」



 リアナが嫌がるので、俺と言左衛門は女たちの「きゃっきゃうふふ」をながめているだけになった。

 リアナからおまるが外れ、無事天井から流れ落ちる液体をかわす。

 液体をちょっとさわってなめてみると、飴の味がした。

 これがかかっても死なないが、ベトベトにはなるので、さけられてよかった。

 言左衛門は黙ってかぶっていたおまるに向かうと、取れた髪の毛を頭に装着。

 俺とリアナ、美雪は見てないふりをしてあげる。

 次の部屋の扉が開いた。

 コンクリートから、藁が敷き詰められた、馬小屋のような所があらわれる。

 おまるについた鎖は停止して転がっていた。

 急にキコ、キコと、何かがこがれる音がする。

 三輪車をこいでる、金髪の幼女人形がやってきた。

 首から提げている名札には、『萌美』と書かれている。

 聞いたことのない名前だ。



『にゃにゃにゃにゃにゃにゃ! にゃにゃにゃにゃにゃにゃ! にゃにゃ、クチュン、シュン……にゃにゃにゃにゃにゃにゃ!』



 録音だろうけど、幼女人形が猫笑いする。

 ミスった箇所を直さないという雑っぷり。

 声がかわいいから、どことなく許せてしまう。

 人形の手にはMP3プレーヤーがあった。

 手に取ってみると、ひらがなで汚い文字が書かれている、紙がはってある。



『ぷれいやぁ、まみぃ』



 再生しろってことか? いちいちかわいいな!


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