メスティンは万能だよね

文字数 2,612文字

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映画ノベライズブログ(https://inaba20151011.hatenablog.jp/entry/2019/11/26/073405)


 何あの子!? 最強の敵か!?

 ピリピリとした威圧が全身を襲う。

 リアナはペッと、折れた歯を口から吐き出し、



「このガキがっ!!」



 両手を広げて、ライオンが子猫に襲いかかる。



「やあっ!」



 パキッと、萌美はリアナにアッパーカット。

 リアナは白目をむいて後ろに倒れ始める。

 一撃で意識を失わされている。



「えーいっ!」



 萌美の蹴りがリアナの首に入る。

 ボキッと、木の幹みたいな首が横に曲がり、リアナは鼻と口から液体を飛ばして、廃虚の壁に激突した。

 岩が砕かれ、煙が舞う。

 アングリと、口が開いたまま身体が硬直。

 小さな身体の幼女が、巨体な男(元巨乳のお姉さん)をボコボコにしている。

 萌美がプリンをちゅるっと吸いつつ、大きな瞳で俺のほうを見た。



「……あれ? ここはどこなんだ? いったい何が起こったんだ? ちなみに俺はあの男とはいっさい関係がありません。あなたと争うつもりは、ない!!」



 最後の言葉は絶対に聞いてほしいので、力強く言ってやった。

 萌美は首をかしげ、



「お兄ちゃん。する?」

「ノオッ!」



 バツをばっと天に掲げる。

 あんな化け物幼女と戦ったら、全身の骨砕かれるわっ!



「萌美。いまからあのお兄ちゃんの骨を一本ずつ砕いて、木琴みたいにするの。邪魔する?」

「ノオッ! ノオッ!」



 首も大きく横に振る。

 やつは好きにしていい。だけど俺は助けてくれっ!

 萌美はかわいらしい笑顔を見せると、人骨音楽を聴くために、リアナに向かう。

 廃虚の中に逃げ出すと、鏡がある。

 鏡の中では、美雪と言左衛門が、固形燃料に火をつけて、メスティンを使い、ブリ飯を作っていた。



「ブリにマッシュルームを入れて、わさびとからしを入れたわ」

「あとは水がふき出すのを待つだけでござるな」

「あっ! あっ! 水ふいてる!」

「できたようでござる」



 美雪が興奮し、言左衛門がメスティンのふたを開ける。

 ふっくらとしたご飯に、白いブリ。

 美雪はさっそくブリとごはんを食べ、



「うまい! しょうが風味のご飯ね!」

「う~ん。マッシュルームも柔らかいでござる」



 言左衛門がほくほくと食べる。



「おいっ!! キャンプしてんじゃねぇ!!」



 鏡をつかんでふたりに叫ぶ。

 美雪のはしが止まり、



「うん? どこからか声がしない?」

「美雪殿~。我慢してたでござるか? まさかブリだけに実が出てしまった……」

「ふんっ!」

「あうちっ!」



 言左衛門をビンタした。

 キョロキョロとどこから声がするのか探し、俺の存在に気づいたようだ。

 俺のほうを見つめている。



「カップラーメンの容器から声がするわ」

「門平の声でござるな」



 美雪と言左衛門が見下ろしている。

 カップラーメンの容器とつながってんの!?

 もうなんでもいいので、美雪たちに状況を訴えることにした。



「こっちは大変なんだ! リアナが金髪碧眼少女と戦ってて、負けてて……そうだ! 萌美って、お前の妹なんじゃないのか!」

「えっ!? 私の妹がリアナと戦ってるの!? どんなバトルなの!? 幻魔大戦的なやつ!?」

「いや、格闘的なやつ! ていうか、その年齢でなんでそれ知ってんだよ! おかしいだろ!」

「会わせて!」



 美雪がそう言うので、姿見を両手で持っていき、萌美とリアナを映す。



「そんな……」

「どうにかしてくれ! このままじゃ、リアナが人間木琴にされるぞ!」

「わかったわ! 萌美! 萌美! こっちにきなさい! メスティンで作ったブリ飯があるわよ!」



 美雪は萌美に向かって、ブリ飯を差し出した。

 萌美は「ふん?」と振り向き、鏡の中にあるほくほくのブリ飯を見つける。

 口からヨダレがたれ、



「おいしそう。萌美、食べたい」



 罠に引っかかり、鏡のほうに近寄ってくる。



「今よ! リアナ! やっちまって!」



 美雪が残酷なことを言う。

「ふんっ!」リアナは萌美の首を太い腕でしめた。

 首の骨をへし折るつもりだ。



「おっおい。お前の妹だろ? 殺していいのかよ?」

「私の妹は黒髪で黒目よ! あんな金髪碧眼知らないわ! いったい誰なの!」

「名前が同じだけだったのか! まあ、お前黒髪だし、おかしいと思ったけど!」



 同姓同名の別人だったので、美雪は幼女を殺しにかかっている。



「なにぃ!?」



 リアナがギリギリと首をしめているが、萌美はまったく動じず向かってくる。

 巨体な猛獣を引きずっている。

 あの小さな体に、すごい力を秘めている。



「おい、しっかりしろよ! お前は世界最強のゴリラだろうが!」



 リアナに発破をかけるが、萌美が死ぬ様子はない。



「美雪殿~。メスティンで、ラー油ギョーザ飯作ったでござる」



 言左衛門が手袋をして持ってくる。

 おいっ! いいかげんキャンプ気分やめろ!



「おうっ!?」



 言左衛門が床でつまずき、メスティンを手放した。

 ギョーザ飯は異世界の壁を乗り越え、ポンッと、萌美の手の中に入る。

 萌美はプリンのスプーンで、ラー油ギョーザ飯を食べた。

 体がプルプル震え、涙を流している。

 ラー油とギョーザのほんのりと、辛い味が身にしみているのか。

 突然光が発せられ、萌美はキラキラと輝き、その姿を消失させていく。

 えっ? 何? 成仏した?

 急展開に頭が追いつかない。

 美雪は絶望的な表情をし、



「なんて……なんてことなの……」

「どうした? 成仏したんじゃないのか?」

「ラー油ギョーザ飯がぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「そっちかよ」



 シクシクと泣き出している。

 萌美がいなくなり、残ったのは、光によって燃やされた焦げ臭いゴリラだけ……。



「はっ!? リアナさん!」



 ゴリラが元の巨乳の女子大生に戻っていた。

 素早く寄って介抱する。

 好感度を上げるチャンスだ!



「悪魔を倒した! 俺たちは元の世界に戻れるぞ!」

「……私、世界最強のゴリラじゃないもん」



 リアナはシクシク細く泣く。



 ――聞かれてたぁぁぁぁっ!



 胸の中で、後悔に泣く俺。

 美雪たちがいる世界に帰って、リアナのために晩飯おごると言う。

 全員で焼き肉屋に行き、一万円が飛んでいった。 





フラットライナーズ解説【了】


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