最後の試練トマトケチャップ味の100円アイス

文字数 2,390文字

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「はっ!」



 光景が変わった。

 チョコレート地獄から解放され、俺は足を鎖でつながれていた。

 鎖は鉄の輪っかにつながっている。

 外で飼われている犬みたいだ。

 足を切り落とす以外、逃げることはできない。



「門平君……」



 リアナがうるんだ瞳で俺を見る。

 彼女も鎖でつながれている。

 机をはさみ、対角線上にいた。



「起きたようだな」



 言左衛門は左の壁際にいた。

 怪獣の角みたいに、額に突き刺さった刀は取れていない。

 血は出ていないし、大丈夫だろう。



「ふごー!! ぐごー!!」



 美雪は俺の右側で、イビキをかいて寝ている。

 両目がお尻のように突き出ていた。

 背中を壁にして、頭はたれ、両足を投げ出している。

 ……早く起きろ!

 しゃべれない理由は、このゲームの主犯格、萌美が台の上にのって、机を使って、プラスチックのおもちゃの銃を組み立てているからだ。

 壁に囲まれてて逃げ場はない。

 リアナと言左衛門が俺を起こせなかった理由だ。

 萌美は口の周りに焦げ茶色のチョコレートをつけたまま、



「にいにとねえねは知ってる? カカオは精神に影響するの」

「ボゴー!!」

「萌美はこの一週間、チョコばっかり食べてるの。おいしいから」

「むごー!!」

「…………」



 知的な会話をひけらかす途中で、萌美はしゃべるのをやめた。

 いや、さっきのが知的かどうかは置いとこう。

 ポッキーを2本持って、ツカツカと美雪に近づく。



「えいっ!」

「ぼうっ!?」



 萌美は美雪の鼻の両穴にポッキーを突っ込んだ。

 鼻水を飛び散らせ、美雪が目をさます。

 美雪は周りの状況を見て、



「ここは!? みんな無事!?」シリアスな顔つきになり、

「あなたっ! 私たちをここに閉じ込めてどういうつもり! 何が目的なの!」



 捕らわれた女刑事ぶりを発揮した。

 彼女のイビキが緊迫した状況を殺していたので、「おっおう」としか答えられない。

 言左衛門はむすっとし、リアナは苦笑いだ。

 萌美はまた銃を組み立て始めると、



「あれは暑い夏でした。萌美はコンビニにアイスを買いに行ったの。ママからおこづかいをもらって。コンビニに入ったとき、にいにとねえねたちが出てきたよね?」

「えっ!?」



 頭の中で海馬が活性化する。

 大学の講義が終わった帰り、暑いからコンビニ行ってアイスを買いにいった。

 お会計を終えて、出て行くときに、金髪碧眼の女の子を見た。

 白いワンピースを着て、かわいい子だなとチラ見したおぼえがある。



 ――あのときの子かっ!



 みんなおぼえているのか、萌美を見つめて口を開ける。

 俺たちは会ってたんだ。

 ゲームマスターと。

 しかし、いったい何をしたというんだ?



「まだ罪を思い出せない?」

「……わからない。俺たちは君に何をしたんだ?」

「萌美が買おうとした、トマトケチャップ味を、全部取ってったの!」

「……はいっ?」



 コンビニで買ったのは、100円で買える『トマトケチャップ味』の棒付きアイスだ。

 めずらしいし、安いから買ったけど、とんでもなくまずかった記憶がある。

 売れなかったのか、コンビニからその味は消えた。



「楽しみにしてたのに! 酸味がすごくて癖になってたのに!」

「いっいや、それなら、ほかのコンビニで買えば……」

「疲れるのっ! そこじゃなきゃ嫌なの! 萌美がどんなにくやしかったかわからないの!」

「わかんないよ。それ」



 萌美が泣き出したので、あやすように言う。

 リアナが同情したのか、



「お姉ちゃんが買ってあげるから……」

「もう売ってないの! 二度と会えなかったの!」

「あー……売れなくて生産中止になってたよね……うん」



 ポリポリと頬を指でかいた。

 言左衛門は同情したのかうなずいている。

 美雪は機嫌が悪くなり、眉間に深いシワが寄った。

 萌美は銃を組み立て終わった。

 銃身の長いライフルっぽい。

 それを机に置き、



「にいにとねえねは選択を間違いました。反省してもらいます。この銃は自由への鍵です。萌美はこれからお昼寝タイムです」



 大あくびした。

 銃を持って仲間を撃てという意味なのだろうが、緊張感がない。

 萌美はあくびしながら、出口に向かい、



「じゃね……あれ?」



 金属製の引き込み戸を閉めようとしたけど、重いのか動かない。



「うんんんんんんんんんっ!!」



 両手でひっぱってもだめなようだ。

 なんだろう。癒やされる。幼女のあどけなさに安らぐ。

 美雪が起き上がると、ライフルを持ち、



「あんたたちを殺さないと、自由になれないわ!」

「うんしょ! うんしょ!」

「私は生きなきゃならないのよ! 死にたくないの!」

「閉められないぃぃぃぃっ! ママァァァァァァっ!」



 超シリアスな展開なのだろうけど、萌美の幼子ボイスが殺意を殺している。

 もう誰か! 閉めるの手伝ってやれ!

 銃を撃たれたとしても、たぶん死なないだろうから、展開が読めて、リアナと言左衛門は苦笑い状態だ。

 美雪のマジ顔が笑えてしまう。



「あんたたち! 何ニヤついてんの!」

「美雪――やめよう」

「……そうね。めんどくさくなったし。ゲームオーバーでいいわ。もう」



 美雪は作っていた顔を崩し、ため息をついて、銃を置いた。

 俺たちの海外ドラマはここで終わった。

 萌美は扉が閉められないと警察に泣きついて、俺たちを捕らえてたことを忘れており、事件がバレた。

 涙を浮かべて国家権力には言わないでという顔つきだったので、かわいいから許してあげた。

 銃の中身はミルクキャンディーだった。





ジグソウ ソウ・レガシー解説【了】


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