カップラーメンにお湯をそそいで3分すると何ができると思う?
文字数 2,450文字
*内容をさらにわかりやすくした『映画チャットノベライズ(笑)』のブログもよろしくお願いします。
映画ノベライズブログ(https://inaba20151011.hatenablog.jp/entry/2019/11/17/094205)
門平善照は大学の食堂でラーメンを食べていた。
カツオのダシがきいてて、麺がうまい。
至福の時間をすごしていると、となりの机がガタッと鳴った。
「こんにちは。門平君」
女子大学生が不敵な笑みを浮かべつつ、スカートから出た足を組む。
美雪雪音だ。
友達である。
イスではなく、机に座るのがうっとうしい。
麺をチュルっと吸い、
「あんだよ。今昼飯中なんだが?」
「あなたに聞きたいことがあるの。カップラーメンにお湯を入れて、三分待つと何ができると思う?」
「ラーメンだろ?」
「ふう。ミジンコね」
「えっ? すさまじくバカにされてる? ラーメンじゃないの?」
美雪は机から飛び降り、
「答えを知りたければ、十八時に大学の地下二階にきて」
俺の耳にふっと息をふきかける。
ロングの黒髪を手でかき上げ去っていった。
ポカンと彼女を見上げ、
「えっ? えっ? ラーメンじゃないの?」
ラーメンの味が頭に入ってこなくなった。
大学の地下二階といえば物置だ。
災害用の食料や水、ベッド……。
そのあとはあらぬ妄想が浮かんでしまい、食べ終わったことすら気づかなかった。
十八時、大学のすべての講義が終わり、俺は階段を使って地下二階に向かう。
学生は立ち入り禁止だけど、若さと性欲でそれを乗り切り、誰にも見つからず到達した。
スパイになった気分だ。
倉庫の扉が開いていて、唾を飲み込んで中に入った。
蛍光灯がチカチカ光ってる。
「おっ、きたでござるな」
「あれ?」
見たことのある男がいると思ったら、友達の言左衛門だった。
「こんばんは。門平君」
リアナもいる。
「やってきたわね」
美雪が段ボールをイスにして座っていた。
ミニスカートから肌色の足が見える。
どこの女教師なんだと言いたい。
「なんだよお前ら。何してんだ?」
まっ、こんなもんだろうと思いながら、後頭部を手でかく。
さすがにふたりっきりはないだろう。
言左衛門は眉間を指でもみ、
「いや。美雪殿の答えを知りたくてな」
「カップラーメンにお湯をそそいで三分待つとどうなるか……哲学的だわ」
リアナは思案しているのか両手をにぎっている。
いや、ラーメンじゃないのか?
答えはそれしかないと思うのだが。
「みんなそろったところで、今から『臨死実験』を行うわ」
両手の甲にアゴをのせ、美雪が言う。
「はっ? 臨死実験? 何それ?」
「答えを知るためにするの」
「ええっ!? ラーメンでいいだろ!?」
なんだかよくわからんことになりつつあった。
美雪は立ち上がり、段ボールをごそごそやって、カップラーメンを四つ取り出した。
電気ケトルのケーブルをコンセントにさし、お湯をわかす。
五分ほどしてお湯がわいた。
静かに四つのカップラーメンにお湯をそそいでいく。
リアナがゴクリと喉を鳴らす。
言左衛門は両目を閉じて瞑想。
美雪はクスリとも笑わない。
なんだこの雰囲気。
美雪が腕時計を見て、
「三分たったわ。これから始まるのは地獄の宴か、それとも天国の門が開くのか……」
「ラーメン食うだけだろ」
良い匂いがしてくる。
言左衛門とリアナが箸を手に取った。
ふたりとも震えている。
なかなかラーメンを食べようとしない。
リアナが箸を置き、
「やっぱりだめだよこんなこと! 危険だよ!」
「いまさら何を言ってるの? これから始まるのは歴史に残ることなのよ!」
「でもっ!」
「いいわっ! 私が第一人者になってやる!」
美雪はカップラーメンのふたを開けて、箸でラーメンをすごいいきおいですすった。
緊迫なシーンなのだろうけど、緊張感がない。
「おいしいラーメンができただけだろ? 何ビビって……ぶっ!?」
口に入れたラーメンを吐き出した。
このカップラーメン……賞味期限がきれてやがる!
美雪は箸を手放し、
「はううっ!?」
ばったり床に倒れる。
陸に打ち上げられた魚のように、びっくんびっくんけいれんし出す。
賞味期限切れのカップラーメンは味も変質するし、殺人的な腹痛と下痢が待っているのだ。
美雪は白目をむき、口から泡をふき出して、全身がプルプルしてる。
もはや毒になっていた。
「おっおいっ! しっかりしろ!」
「なんとっ! このカップラーメン……」
「何日だ! 賞味期限が切れて何日たってるんだ!?」
「具が硬いでござる!」
言左衛門が箸で、硬い具をつかんで俺に見せる。
「内側の線までお湯が入ってなかったのよ!」
リアナが絶望の悲鳴を上げた。
いや、そこはどうでもいいだろ! 友達が死にかけてるんだぞ!
美雪は鼻と口から透明な液体をたれ流し、ひどい状態になっていた。
*
美雪雪音は車を運転していた。
信号が赤になっている。
車を停車して、窓から外を見ると、赤い車を肩で運んでいるマッチョな男が道路脇を歩いていた。
黒い海パンで、悠々と一トン以上ある物を運んでいる。
アングリと見ていると、男が私のほうを向いて、白い歯をきらめかせた。
――アーノルド!? アーノルドなの!?
見たことのある外国人俳優で、ター○ネーターの人だ。
野太い腕に、強力な上半身。
漫画のような肉体を持った男。
信号が青になった。
太いタイヤのように折れ曲がったアソコを凝視しそうになったので、あわてて車を発進させる。
火照った体から汗が流れ落ち、あらぶった呼吸を整えていると、助手席から名前を呼ばれた。
――お姉ちゃん。
妹の萌美だ。
私にまぶしい笑顔を見せてくれる。
そしてその笑顔が最後になることを、私は知っている。
車のガラスから入ってくる光に包まれ、私の身体はお湯をそそがれた乾燥麺のように、激しく膨張していった。
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門平善照は大学の食堂でラーメンを食べていた。
カツオのダシがきいてて、麺がうまい。
至福の時間をすごしていると、となりの机がガタッと鳴った。
「こんにちは。門平君」
女子大学生が不敵な笑みを浮かべつつ、スカートから出た足を組む。
美雪雪音だ。
友達である。
イスではなく、机に座るのがうっとうしい。
麺をチュルっと吸い、
「あんだよ。今昼飯中なんだが?」
「あなたに聞きたいことがあるの。カップラーメンにお湯を入れて、三分待つと何ができると思う?」
「ラーメンだろ?」
「ふう。ミジンコね」
「えっ? すさまじくバカにされてる? ラーメンじゃないの?」
美雪は机から飛び降り、
「答えを知りたければ、十八時に大学の地下二階にきて」
俺の耳にふっと息をふきかける。
ロングの黒髪を手でかき上げ去っていった。
ポカンと彼女を見上げ、
「えっ? えっ? ラーメンじゃないの?」
ラーメンの味が頭に入ってこなくなった。
大学の地下二階といえば物置だ。
災害用の食料や水、ベッド……。
そのあとはあらぬ妄想が浮かんでしまい、食べ終わったことすら気づかなかった。
十八時、大学のすべての講義が終わり、俺は階段を使って地下二階に向かう。
学生は立ち入り禁止だけど、若さと性欲でそれを乗り切り、誰にも見つからず到達した。
スパイになった気分だ。
倉庫の扉が開いていて、唾を飲み込んで中に入った。
蛍光灯がチカチカ光ってる。
「おっ、きたでござるな」
「あれ?」
見たことのある男がいると思ったら、友達の言左衛門だった。
「こんばんは。門平君」
リアナもいる。
「やってきたわね」
美雪が段ボールをイスにして座っていた。
ミニスカートから肌色の足が見える。
どこの女教師なんだと言いたい。
「なんだよお前ら。何してんだ?」
まっ、こんなもんだろうと思いながら、後頭部を手でかく。
さすがにふたりっきりはないだろう。
言左衛門は眉間を指でもみ、
「いや。美雪殿の答えを知りたくてな」
「カップラーメンにお湯をそそいで三分待つとどうなるか……哲学的だわ」
リアナは思案しているのか両手をにぎっている。
いや、ラーメンじゃないのか?
答えはそれしかないと思うのだが。
「みんなそろったところで、今から『臨死実験』を行うわ」
両手の甲にアゴをのせ、美雪が言う。
「はっ? 臨死実験? 何それ?」
「答えを知るためにするの」
「ええっ!? ラーメンでいいだろ!?」
なんだかよくわからんことになりつつあった。
美雪は立ち上がり、段ボールをごそごそやって、カップラーメンを四つ取り出した。
電気ケトルのケーブルをコンセントにさし、お湯をわかす。
五分ほどしてお湯がわいた。
静かに四つのカップラーメンにお湯をそそいでいく。
リアナがゴクリと喉を鳴らす。
言左衛門は両目を閉じて瞑想。
美雪はクスリとも笑わない。
なんだこの雰囲気。
美雪が腕時計を見て、
「三分たったわ。これから始まるのは地獄の宴か、それとも天国の門が開くのか……」
「ラーメン食うだけだろ」
良い匂いがしてくる。
言左衛門とリアナが箸を手に取った。
ふたりとも震えている。
なかなかラーメンを食べようとしない。
リアナが箸を置き、
「やっぱりだめだよこんなこと! 危険だよ!」
「いまさら何を言ってるの? これから始まるのは歴史に残ることなのよ!」
「でもっ!」
「いいわっ! 私が第一人者になってやる!」
美雪はカップラーメンのふたを開けて、箸でラーメンをすごいいきおいですすった。
緊迫なシーンなのだろうけど、緊張感がない。
「おいしいラーメンができただけだろ? 何ビビって……ぶっ!?」
口に入れたラーメンを吐き出した。
このカップラーメン……賞味期限がきれてやがる!
美雪は箸を手放し、
「はううっ!?」
ばったり床に倒れる。
陸に打ち上げられた魚のように、びっくんびっくんけいれんし出す。
賞味期限切れのカップラーメンは味も変質するし、殺人的な腹痛と下痢が待っているのだ。
美雪は白目をむき、口から泡をふき出して、全身がプルプルしてる。
もはや毒になっていた。
「おっおいっ! しっかりしろ!」
「なんとっ! このカップラーメン……」
「何日だ! 賞味期限が切れて何日たってるんだ!?」
「具が硬いでござる!」
言左衛門が箸で、硬い具をつかんで俺に見せる。
「内側の線までお湯が入ってなかったのよ!」
リアナが絶望の悲鳴を上げた。
いや、そこはどうでもいいだろ! 友達が死にかけてるんだぞ!
美雪は鼻と口から透明な液体をたれ流し、ひどい状態になっていた。
*
美雪雪音は車を運転していた。
信号が赤になっている。
車を停車して、窓から外を見ると、赤い車を肩で運んでいるマッチョな男が道路脇を歩いていた。
黒い海パンで、悠々と一トン以上ある物を運んでいる。
アングリと見ていると、男が私のほうを向いて、白い歯をきらめかせた。
――アーノルド!? アーノルドなの!?
見たことのある外国人俳優で、ター○ネーターの人だ。
野太い腕に、強力な上半身。
漫画のような肉体を持った男。
信号が青になった。
太いタイヤのように折れ曲がったアソコを凝視しそうになったので、あわてて車を発進させる。
火照った体から汗が流れ落ち、あらぶった呼吸を整えていると、助手席から名前を呼ばれた。
――お姉ちゃん。
妹の萌美だ。
私にまぶしい笑顔を見せてくれる。
そしてその笑顔が最後になることを、私は知っている。
車のガラスから入ってくる光に包まれ、私の身体はお湯をそそがれた乾燥麺のように、激しく膨張していった。
*内容をさらにわかりやすくした『映画チャットノベライズ(笑)』のブログもよろしくお願いします。