ルールその1:赤い扉を開けてはならない

文字数 2,057文字

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映画ノベライズブログ(https://inaba20151011.hatenablog.jp/entry/2019/12/31/102924)


 門平善照は閉ざされた地下生活を送っていた。

 世界は滅亡してしまった。

 訳のわからないウイルスによって。

 人類はほぼ死滅し、この地下にいるのは、俺のほかに、リアナ恵子と萌美ぐらいだった。

『それ』はとてつもなく恐ろしい。

 リアナがハンカチを目元にあて、



「今日は悲しかったわね。あなたの祖父が感染して死んでしまって」

「じいじ、死んじゃったの?」



 萌美が食卓に腕を置いて、悲しそうに顔を伏せる。



 俺は感染した祖父をバックドロップで昇天させ、下着をいただいた。

 トランクスタイプの下着で、前々から狙っていたものだった。

 萌美に現実の厳しさを教えてやろうと、祖父の死にざまを見せたのだが、爆笑していた。



 リアナが机の上に、『ヘビーチキン』をのせ、



「さっ! たくさん食べましょ!」

「わーい! いっただっきま~す!」



 萌美はかわいらしい口で、チキンにかぶりついた。

 そこから唐揚げパーティーが始まり、祖父の悲しみをふきとばすため、だいたい3皿たいらげたところで、胃もたれした。

 油がすごすぎた。

 チキンは俺たちが育てたものだ。

 オーガニックである。(意味はわからんが)

 もし人類が滅亡の危機にひんしてなければ、第二のケンタッキーフライドチキンを作り上げることができたかもしれない。



 おなかいっぱい食べ、萌美が眠ったところを見計らって、リアナの部屋に入ろうとしたら、ほほ笑みながらドアを閉められてしまう。

 もう数年は一緒にいるんだから、いいかげんそういう関係になってもいいんじゃないのと思いつつ、今夜もひとりの夜をすごした。



 そう、リアナは大学の友達でそれ以上の関係じゃない。

 萌美にいたっては、なぜか俺を父親と呼び、「認知して!」と言われちゃったので、俺の子にした。

 かわいさに負けたといえる。



 俺たちはもう家族同然の付き合いだった。



 祖父から「お前は俺の子じゃない」と言われる悪夢にうなされ続けていると、ドアが突然開いて、萌美が入ってきた。

 俺は手で眠い目をこすりながら、



「どうしたんだ? またもらしたのか?」

「違うもん! もらしてないもん! ちょっと出たけど!」



 顔をふくらませながら、再びやってしまった萌美。

 股間の筋肉がゆるいのかな?

 大人になったらどうなるんだろうと、想像するだけで怖くなる。



「玄関から物音がするよ」

「えっ!?」



 俺は飛び起きた。

 夜になると、『それ』がやってくる。

 だから、家族でルールを決めていた。

 夜中にやってくる『それ』は何かわからないが、とんでもなく凶悪で、とんでもなく凶悪だと聞かされていたからだ。(それ以上感想が浮かんでこない)

 病原菌を運んできた原因にもなったらしい。

 赤い扉に、夜は近寄ってはならない。

 それは俺たち家族のルールだった。



 銃を持ち、病原菌予防のガスマスクをつけて、出入り口を目指す。

 音がした。

 懐中電灯を照らしてみると、何かをかぶった男が、光に驚いて、手で顔を隠した。



「貴様!」



 男が頭にかぶっていたのは、干しておいた俺の下着(トランクスタイプ)だった。

 俺は銃を振り上げ、男の頭をなぐった。

「おじゃる!?」と鳴いた男は気絶したので、袋をかぶせて、外に連れ出した。

 感染した危険性がある。

 チョンマゲの男を木にくくりつけ、仲間がいないかどうか確かめてみる。

 家に帰り、木造の壁のすきまから男をながめた。

 意識を取り戻した男は、助けを呼び続けていた。

 俺は銃をかまえ、目を細めたまま、男の動きを警戒していた。



 夜が明け、朝になった。

 マスクを外して爆睡していた俺は、パンケーキの匂いに目覚め、リアナと萌美と一緒に、ケーキをほおばりながら外に出た。

 ラジオ体操第二をしていると、木にしばりつけていた男を思い出した。

 頭にかぶせた布を外すと、チョンマゲ男は苦しそうに息を吐きながら、



「拙者は悪者ではござらんよぉ……」



 泣きそうな声で訴えてくる。

 夜中にひとりっきりなので、俺なら気が狂ってるな。

 忘れてたけど。

 リアナはパンケーキをもしゃもしゃ食べながら、



「あらかわいそう。おなかすいてるでしょ? パンケーキはいかが?」

「いや、今は、何か食べたい気分ではござらんゆえ」

「えんりょしないで」



 チョンマゲ男の口にパンケーキをつめこんだ。

「おぶっ!? おぶぶっ!!」男は口をふさがれたので、鼻から息をふきだした。



「まだ足りないんだね。萌美は耳から入れてあげるね!」



 と、萌美は男の耳の穴にパンケーキをつめこむ。

 チョンマゲ男はしばられていない両足をばたばたさせ、涙目で俺を見上げてきた。

 ふふ。まったく。母性にめざめたのかな。

 俺は感動して涙した。


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