日本人にとってかわいいものは正義

文字数 2,280文字

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映画ノベライズブログ(https://inaba20151011.hatenablog.jp/entry/2019/11/01/095030)


 門平善照には恋人がいた。

 萌美という六歳の妖精さんだ。

 彼女は妖精で人間ではないが、人間の年齢でいうと六歳なので、見た目は幼女にしか見えない。

 日本では完全に結婚できる年齢ではないけど、人間ではないのでセーフだった。

 自慢のカメラの手入れを部屋でしていると、萌美がドアを開けて入ってきた。



「お兄ちゃん! 何してるの?」



 はじけるような笑顔を見せる萌美。

 とことこと歩いてきて、ベッドにポンッとのる。

 彼女は俺のことを「お兄ちゃん」と呼んで慕っている。

 けっして言わせているわけではない。



「別に。仕事道具の手入れさ」

「へー。そんなことより、したくはすんだ? ワンワンはかわいいねぇ」



 萌美は俺のペットである小型犬をなでなでし始めた。

 集中力がないのだ。

 まあ、幼女だからしかたないだろう。



「終わったよ。それよりご両親に、その、俺が日本人だと伝えたか?」

「ううん。なんで?」



 萌美が首を振って、小さくかしげる。

 まあ、忘れてるだろうなとは、思ってた。

 これも幼女だからしかたないだろう。

 一抹の不安を残しつつ、俺と萌美は車に乗って、萌美の実家に向かった。

 運転は萌美がしている。

 本来車の運転は免許が必要だけど、妖精は特別必要なかった。

 口笛をふきながら、萌美はブレーキやアクセルを飛び込んで踏んでいた。

 小柄なのでしかたないが、よく体力が持つものだと感心する。

 親友の言左衛門にペットの世話を頼もうと、スマートフォンで電話した。

 彼は警備員の仕事をしている。



「おおっ! 門平ではないか! どうしたでござる?」

「ああ。すまないけど、ペットの世話を頼みたいんだ」

「ほう? どこに行くでござるか?」

「萌美の実家だ。ご両親にあいさつしにいく」

「ほほう。まあ人の恋路を邪魔する気はござらんが、やめたほうがよかろう」

「なんでだ?」

「ロリコンと思われるでござる」



 そう。それだ。

 日本人はかわいいもの好きなので、世界的にもロリコンが多い国だと思われている。

 ツイッターのアニメ調アイコンがそれを物語っているのだ。

 変な目でご両親に見られなければいいのだが……。



「ぐはっ!?」



 突然車が停止した。

 スマホの通話が切れる。

 サイドミラーが取れてたれている。



「なんかひいちゃったぁ~」



 萌美がうるうると俺を見る。

 警察を呼び、ひいたものを見に行くと、野生のマスコットキャラだった。

 日本一ブサイクだと言われた、奈良のやつだ。

 ピクピクとけいれんしている。

 ついに世間に飽きられてしまい、美女と交代させられたか。

 警察に説明していると、免許証を求められる。



「俺は助手席に座ってて、何もしてないんだけど……」

「いいから出しなさい」



 有無を言わさない態度だ。

 顔が引きつり、犯罪者を見るかのような目で俺を見ている。

 普通なら萌美に免許証提示を求めそうなものだが……。

 萌美は両目をうるわし、警察官のズボンをひっぱり、



「おじさん、いじわるはやめてよ……」

「うん。わるかった。おじさんは帰る」



 泣かれるとめんどうだと思ったのか、パトカーに乗って帰っていった。

 萌美の実家に着くと、ご両親が迎えてくれた。

 途中で草を刈っている使用人は、同じ日本人だった。

 親近感をおぼえる。

 両親は萌美と同じく小柄で、目が大きく、年齢も萌美と変わらなかった。

 ひげをつけた萌美のお父さんに家の中を案内される。

 台所に日本人女性の使用人が立って迎えてくれた。

 口の端が切れそうなぐらいの笑顔なので、ちょっと不気味だった。

 萌美のお父さんと外を歩き、



「日本では総理大臣をキャラクター化するそうだね」

「政治が悪かったら売れませんよ」

「そうか。わが国も前大統領のキャラクターなら買うがね」



 この国の人々は、今の大統領のキャラクターが出たら、額に銃弾を撃ち込みそうだ。

 夜。

 萌美の弟が帰ってきたようなので、家族で食事を取る。

 弟はボサ髪のヒゲ面で不衛生そうだが、体格はやっぱり萌美だった。

 弟は医者だそうだ。父は外科医で、母は精神科医。

 いわゆるインテリ家族だった。

 萌美から聞かされていなかったので知らなかった。

 俺も家族のことを聞かれたが、関係が悪いので、口をにごす。

 弟はユーチューブにはまっているらしく、



「日本はバーチャルユーチューブってのが人気らしいな?」

「最近出てきましたね」

「なあ? なんで猫耳をつけた女の子キャラで、動画三つ出しただけで、チャンネル登録数十万も取れるんだよ? お前の国はどうなってんだ?」



 酒で酔ってるのか、口が悪い。

 俺の肩をつかみ揺すってくる。



「教えろよ! 俺が猫耳つけたら、チャンネル数百は減ったぞ!? お前の国はどんだけキメラ好きなんだよ! あれ目の大きいグレイ型エイリアンと何が違うんだよ!」

「しっ知りませんよ!」



 そこは日本人の俺でもわからん。

 萌美のお母さんが蜂蜜入り緑茶をバンッと机に置き、



「あなたに足りないもの――歌と踊りよ」



 お母さん。それを入れても、こいつは無理だ。声がウシガエルだから。



「えいっ!」

「ほぐっ!?」



 萌美が弟にケーキを投げつけた。

 そのあと、ケーキ投げ合戦が始まる。

 激しいバトルではなく、ファンシーな気分になった。


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