海還りした友は怪物となった

文字数 1,552文字

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映画ノベライズブログ(https://inaba20151011.hatenablog.jp/entry/2019/12/11/091336)


 泳ぎ続けていると、体力を失っていく。

 ゴールの見えない水面だらけの世界。

 精神的にもキツくなってきたので、バタつかせるのをやめた。

 言左衛門は見えなくなっている。

 触手の化け物もだ。

 海水を飲んじまったからか、喉の渇きがひどくなる。

 ひとりになったというのもつらい。

 照りつける太陽の下で、誰もいない水色の世界で、孤独と疲れで身体が圧迫されていく。



「いたっ!?」



 足を突っつかれた。

 激痛が走る。

 水面の下は何がいるのかわからない。

 水面に背びれが、にょきっと生えてきた。

 サメだ。

 夏になると、海の事故でメジャーなやつだ。

 言葉が恐怖でつっかえる。

 この場合、どんな対処をすればいいのか、頭の中を検索しても見つからない。

 海なんて、紫外線の有害性がわかってから、家族とだって行ったことない。

 体を硬直させる。

 背びれが俺の周りをグルリと回転し始める。

 狙われている。

 ガチガチと、歯が震えてきた。

 いっそうのこと、早く殺してくれれば楽になるんじゃないか。

 餌が観念したと思ったのか、背びれがすうっと近づき、



「やあ、門平君。調子はどうでござる?」



 髪型をモヒカンにした言左衛門が顔を水面から出した。

 しばらく黙ったあと、



「何してんの?」

「触手のあるじに刺されてから、生まれ変わった気分になったでござる。髪型もカッコよくなったでござるよ」



 言左衛門はまた水中にもぐっていく。



 ――生きてたか……。



 見捨てたという罪悪感がなくなり、孤独という恐怖が薄れていく。

 この際、モヒカンを背びれと見間違えたことは許そう。

 誰も悪くない。

 すべて美雪が悪い。

 女の色気で誘ってやったわ、とか、今頃言ってるだろうから、いかに俺が肉食系ではないことを説教してやらねばならない。

 生きる意欲がわいてきた。

 うん? あいつ、海にもぐったまま出てこないぞ?

 心配になって言左衛門を探すが、どこにもいない。

 時間的に、もう10分以上はたっているはずだ。

 10分ももぐれたら、ギネス記録取れるんじゃないか?

 不安が再び活性化してきた。

 モヒカンが水面にすっと飛び出る。

 ビクッと、する。

 言左衛門が顔を出し、



「瀬戸内海のタイを取ってきたでござる」

「はっはい!? それ、捕まえられたのか……」

「平気でござる。このとおり拙者――エラ呼吸できるようになったでござるから」



 水面から上半身を出した言左衛門は、全身が魚のような緑色のうろこでおおわれていた。

 両目がタコみたいに水平だ。

 友達は海に適用し、水中で生活できるようになっていた。

 いわゆる、半魚人化である。

 タイを片手で持つと、白身を牙で突き破り、クチャクチャ食べている。

 あかん! 目を合わせたらあかんやつや!

 俺は言左衛門から目をそらした。

 犬は強い者が来ると、目をそらすという。

 生存本能が呼び起こされる。



「……漁師に捕まらないようにしろよ」

「そう簡単に、網にはかからんでござるよ。それでは、水中遊泳を楽しむでござる」



 言左衛門が海の故郷へと帰っていく。

 陸には二度と上がれないだろう。

 大学の単位は取れないから中退だな。



 ――あっちぃ……。



 殺人的な太陽が俺を照りつける。

 船を探さなければ。

 ふっと、太陽とは逆の方向を見ると、白いヨットが帆を立てている。

 叫んでも声は届かない。

 泳いでいくしかない。



 ――行くぞ!



 船に向かって泳ぎ始めた。


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