新撰組ならサインほしいよね

文字数 2,012文字

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映画ノベライズブログ(https://inaba20151011.hatenablog.jp/entry/2019/12/18/152625)


 台所では、きゃいきゃいと、美雪とリアナが会話しているので、音に気づいていない。

 屋敷の廊下に出ると、また誰かが手をたたく。

 階段近くの扉が開いていた。

 地下室に続く部屋だ。

 ちゃんと閉めたはずなのに。

 部屋をのぞいても、誰もいない。

 地下で音が、一つ響いた。

 下にいるのか?

 再び階段を下りてみる。

 気配がした。

 誰かが床に、どっしりと座っている。

 ちょんまげからして、サムライか?

 俺に気づくと、すっと立ち上がり、赤さびだらけの刀をかまえる。



 ――あの水平のかまえ、天然理心流!?



 スピードと連続攻撃に特化した突き技。

 新撰組1番隊組長、沖田総司が得意とした剣技だ。

 その実力は近藤勇すらしのぐという。



 ――ぜひサインがほしい!



 沖田本人なら、幽霊でも大歓迎だ。

 照明の下に立ったそれは、厚化粧で、顔のごつい、赤い口紅をした、大男だった。

 白目をむいて、クンクン若い男の匂いをかいでいる。

 やべぇ。別人だった。

 時代劇の見すぎを反省。

 完全なオネエの霊だった。

 手をたたいている音は、すね毛をガムテープで処理している音だった。

 証拠に黒い毛がびっしりとついた、ガムテープの残骸を持っている。

 今時そんなことをするのは、目立ちたいYouTube投稿者ぐらいじゃないか?



「若いオスぅぅぅぅっ!!」



 大男の霊が、頭突きで丸形照明をたたき割った。

 興奮してる!

 荒い鼻息が床のほこりをふき飛ばした。



「いやああああああっ!」



 女のような悲鳴を上げて、俺は階段を駆け上がった。

 出入り口の扉を開けようとノブを回す。

 開かない!

 何か強い力で押さえつけている。

 オネエは階段を上ってこない。

 照明がなくなったので、周りは暗くて見えない。



 ――あっ明かり! 明かりっ!



 ポケットからスマートフォンを取り出した。

 画面を操作して、ライトモードにする。

 階段の下を照らすと、あの大男の姿はなかった。



「いない? 消えたのか……」

「捕まえぴっ!」

「えっ!? ふぐうっ!!」



 俺の鼻から液体が散った。

 どでかい手が俺の股間をにぎりしめる。

 優しくにぎられたと思ったら、強めにしたりして、強弱をもたせている。

 指で玉を転がされている。

 もてあそばれている。

 なんかおなか痛くなってきた!



「うりゃっ!」

「ぐわっ!」



 ドアが頭に当たり、階段の所まで転がった。

 危うく落ちそうになった。

 大男の気配は消え、刀はなんだったんだと、ツッコめないまま終わった。

 美雪が俺を見下ろして腕を組み、



「何してんの? うるさいから開けてみたけど」

「……言いたくない」

「うん? 泣いてんの? 霊に出会ったぐらいで、なさけない」



 霊のほうが数倍よかった。

 股間をイジられたとは、とうてい言えず、リアナが来る前に体調を整える。

 リアナが恐る恐る壁から顔を出して、



「何がいたんですかぁ?」

「オッサンだ。オッサンの霊がいた」

「そんな、怖い」

「うん、俺も恐ろしい」



 一緒に顔を青くする。

 別の意味で男にとって怖い霊だ。

 美雪が細い目でリアナを見て、



「毎夜どんなプレイしてるのよ?」

「そんなことしてないもん!」



 そこはしっかり怒っていた。

 3人で地下室に下りてみようということになった。

 俺は嫌がった。

 やつのテクニックで生命の種が出てしまったら、未来永劫立ち直れない。

 人生にトラウマを残してしまう。

 だけど美雪は、そんなことまったくお構いなしに、俺の背中をどついて下におろした。

 しょせんは女だ。

 運がいいのか、あのオカマはどこにもいなかった。

 状況を美雪に説明すると、手をたたく行為は精霊をバカにしている行為だという。

 手をたたいたのではなく、ガムテープですね毛を処理していた音なのだが、放心状態の俺はそう思い込みたかったので、そう言った。

 状況を重くみた美雪は、有名な霊媒師に電話すると携帯を取り出した。

 和歌山県の高野山で修行した高僧なのだという。

 期待感が高まった。



「もしもし、マリリン? 除霊を頼みたいんだけど。えっ? お魚100匹? わかった。生でいいのね?」



 うん? 高僧……なのか?



「証拠を集めないと動きたくないでござる、だそうよ」



 美雪はため息をついて携帯を切った。

 くわしく話を聞くと、和歌山県浜の宮ビーチで魚を捕ってる猫顔のおばちゃんらしい。

 高野山で修行したのは間違いなく、肉体言語で野生動物を狩ってたようだ。

 リアナはがっかりした顔をしていたが、俺はやつを狩れるんじゃないかという妙な期待が高まり、美雪に協力することにした。


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