誰のモノマネかわからない

文字数 1,627文字

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小説ノベライズブログ(https://inaba20151011.hatenablog.jp/entry/2019/10/11/113403)


 正義感に燃え上がり、私は助けを呼ぶ声の主に走っていた。

 壊れた車が捨てられてある。

 自然現象で壊れたというか、破壊されたような跡があった。



「助けてくれ!」



 声がしたほうに行くと、門平が地面に座って動けないでいた。



「大丈夫! うっ!?」



 門平の足を見てうなった。

 水あめのようなものが、足にからみついている。

 ベトベトしていて、気持ち悪い。



「よかった! 助けてくれ!」



 門平が私を見つけ、手をのばしてくる。

 手からねばっこい液体がたれていた。

 正直さわりたくない。



「あなたはなんでここにいるの?」



 距離をとりつつ聞いてみる。



「車でアルバイト先まで運転していたら、幼女が道端を歩いていたんだ。かわいいから、車を止めて、話しかけたら、突然口にキャンディーを突っ込まれて、気絶させられた。気づいたらここにいたんだ」

「イタズラしようと思ったのね」

「いやなんでだよ!? 違うわ! 確かに普段はあんまりそういうことはしないけど、あの子を見てたらそんな気になったんだよ!」



 門平はあせってツッコんできた。

 うそだ。幼女を背中にのせて、お馬さんごっこをするのが好きな人に違いない。

 情報を聞き出して、見捨てよう。



「ここから逃げ出す道はないの?」

「はあっ、はあっ……このあたりには、十メートル以上のフェンスがあって、魔法がかかってるから逃げ出せない。途方に暮れていると、あいつがやってきて、俺を罠にはめたんだ。まるでお兄ちゃんを確保したかのように」

「そう。じゃ、そういうことで」

「えっ!? ちょっと待て! 助けてくれよ!」

「じゃ、おもしろいモノマネしてみて」

「えっ!?」



 門平の目が踊る。

 どんなモノマネで私を楽しませてくれるのだろう。

 助ける気はないけど。

 門平が梅干しを食べたように、しょっぱい顔をして、



「そんなこと言ったって、しょうがないじゃないか」

「誰かわかりません。さようなら」



 立ち去ろうとした。

 聞いたことあるけど、本当に誰かわからない。

 助ける気はまったくないけど。



「大丈夫! 妖精はやっつけたわ! 助けを呼んでくるから! けっしてベトベトしてて気持ち悪そうだから、助けたくないわけじゃないのよ!」

「それが本音かよ! 待てぇぇぇっ!」



 叫ぶ門平をおいといて、私は出口を探し続けた。

 不気味な小屋があった。

 塗装のはげた馬の銅像が置いてある。

 転がっているのは、お尻にキャンディーの棒を突っ込まれた人形だ。

 さび付いたドアを開け、小屋に入る。

 静かだ。誰もいない。

 小屋の中に入ると、不気味な人形たちが出迎えてくれた。

 みんなお尻にキャンディーが突っ込まれている。

 甘い匂いが吐き気をもよおしそうだった。



『助けてくれぇ!』



 突然、門平の声が響いた。

 無線だ。

 スピーカーから音声が飛び出している。



『そこにいるんですね? お姉ちゃん』



 妖精さんの声がした。

 生きていた。

 しまった。あわててたので、死んでるかどうか確認していなかった。

 がんじょうなガスマスクのおかげで助かっていたのか。



『いやぁぁぁぁぁぁ!! ベトベトするぅ!!』



 門平が苦しんでいる。

 水あめを頭からかぶされているに違いない。

 笑える。



『もうすぐそこに行きますから、まっててね』



 無邪気な声色で、萌美は怖いことを言う。



『お兄さん。最後にモノマネしてください』

『母さん、そんなこと言ったって、しょうがないじゃないか、ぎゃあああああっ!!』



 えなり君!? 思い出したわ、えなり君だわ! 彼もういい年だから、誰もわからないわよ! はっ!?

 小屋の外で動く気配を感じた。


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