最強の生き物あらわる

文字数 2,919文字

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映画ノベライズブログ(https://inaba20151011.hatenablog.jp/entry/2019/11/25/092349)


 門平は病院の病室で美雪の見舞いにきていた。

 あの筋肉祭りから無事生還したのだ。

 美雪は病室のベッドで上半身を起こしている。

 マンションから落ちたらしい。

 不思議なことに、最強の生物の身体を失い、きゃしゃな女性に戻っていた。

 言左衛門とリアナは化け物のままである。

 俺はいつもの美雪を見てほっとしている。

 筋肉にもてあそばれるのは、ごめんだ。

 美雪は病室の窓から外をながめ、



「マッスルパワーで生き延びたわ」

「すごいな。もうター○ネーターだな。いつ人間を滅ぼす気なんだ? 俺たち人類の未来はどうなっちまうんだ」



 美雪は俺の冗談に答えない。

 真剣な話だと感じた。

 リアナが不服そうな顔つきをし、



「軟弱な。たかだかマンションから落ちたぐらいで入院するとは」

「うほうほ。うほほほほ(美雪殿。けがは良い経験でござる。療養されよ)」



 言左衛門ゴリラは立派なことを言ってそうだが、ゴリラ語がわからなかった。

 マンションの十階から落ちれば十分死ぬレベルだと思うのだが。

 美雪は顔を上げ、



「……妹に会ったわ」

「妹いたのか?」

「ええ。もう死んでいるけどね。彼女があのマンションにいて、私を突き落としたの」

「えっ!? 生きていたのか!?」

「ううん。あれは妹の姿をした悪魔だと思う。でなければ、この私を突き落とすことなど不可能よ」

「そうか。それぐらいないと、マッチョな肉体がはじき返すだろうからな」



 にわかには信じがたいが、事実、きゃしゃな女性がマッチョになるぐらいだ。

 世の中オカルトぐらいあるように思えてきた。



「これからも彼女は私を襲ってくるでしょうね。マッスルパワーを失った今、私は普通の一般人。ただの女よ」

「それで良かったのだと言いたいけど、悪魔の対策は必要だな」

「それで考えたんだけど、罪を償えばこの悪夢からさめるんじゃないかしら?」

「唐突な解決策だな。いろいろと突っ込みどころはあるけど」



 そもそも臨死体験をして、悪魔が出てきて、罪償って終わるというのが安易だ。

 だがもうやるしかないか。

 言左衛門ゴリラがバナナの皮を外に捨て、



「うほほ。うほうほ。うほほほほ(俺も奉行に出世するために、シーフードヌードルと偽って、カレーヌードルを同僚に食べさせ、苦しめた過去があるでござる。やつに謝らねば夢にも化けて出てくるでござろう)」



 何やら真剣な顔つきで言っているが、言語がわからん。



「笑止!!」リアナがイスを倒して立ち上がり、

「バカどもが! 付き合ってられんわ! 強くなりたければ、喰らえ!!」



 捨てゼルフを残して病室から出ていく。



「ねえ誰!? あの子誰なの!?」



 俺は軽くパニックを起こす。

 オネエ言葉も出てしまう。

 大学のアイドルだったはずなのに、なんであんな焼けた肌のオッサンになるのか。



「行きましょ、門平。罪を償うために」

「……えっ? なぜ俺? ひとりで行けば……」

「とりあえずコンビニでプリン買ってきて」

「あっ、うん、はい」



 美雪の要望を断り切れず、自腹でプリンを買わされた。

 車の運転をさせられ、助手席には美雪が、後ろの席はゴリラが支配していた。

 美雪の実家近くにある墓に連れていかれ、妹の萌美の墓にプリンが置かれる。



「あなたが好きだった、糖質ゼロのプリンよ」



 美雪はそういうと、手を合わせた。

 俺とゴリラも手を合わせる。

 となりにいた金髪碧眼の女の子も手を合わせている。

 静かな時間が流れた。

 しばらくして手を解放すると、金髪碧眼の女の子がいなくなっていた。

 霊的な何かを感じるとしたら、無事成仏できたのだろうか。



「なあ。妹さんはプリンを食べて、食中毒で死んだのか?」

「いいえ、違うわ。萌美はプリンが食べたいと言ったけど、私は完璧なお人形さんがほしかったから、彼女の胃の中に食べ物が残ることを恐れたの。水を飲ますのが精いっぱいだったわ」

「…………」



 あれ? 今やべぇこと聞いたような気がする。

 そもそも美雪に妹がいたなんて初めて聞いた。

 俺はなんらかの恐怖を感じて、それ以上聞くのをやめた。

 言左衛門はライバルだった親友に会いにいっていた。

 親友もゴリラになっていて、言左衛門を見て激しく胸を手でたたき、ドラミングをしていた。

 言左衛門はシーフードヌードルを友に見せる。

 威嚇がピタリとやみ、「うほうほ」とふたりは見つめ合い、お尻を突き合わせた。

 なんらかの友情が芽生えたようだ。

 言左衛門はゴリラから人間に戻り、すべてが解決したかのように思えた。

 美雪の携帯が鳴った。



「はい? えっ、リアナ? どうしたの? えっ、えっ? ちょっと待って!」



 美雪の携帯が切れたようだ。

 俺と言左衛門は注目する。

 美雪は俺を見て、



「大変よ……携帯の電源が切れたわ!」

「ちゃんと充電しとけよ」

「それどころじゃないの! リアナが自殺するって! 単位を取るためにカンニングしたから!」

「うそだろ、おい? 最強の生き物がなんでそんなにメンタル弱いんだよ」

「早く大学の地下室に行くのよ! あそこには、賞味期限が一年以上たったカップラーメンがあるの!」

「マジか! そいつは大変だ!」



 車のハンドルを操作し、アクセルを踏みつつ、信号が赤になったら停止し、いつもよりも遅く大学の駐車場についた。

 俺たち三人は大学の地下室に向かった。

 階段を駆け下り、美雪について行ったら道を間違えたのか迷い、一時間も遅れてカップラーメンが保存されている倉庫につく。

 リアナがうつぶせに倒れていた。

 筋肉の塊が転がってるのかと思った。

 ライオンみたいな髪型がペタンと床についている。

 食べかけのカップラーメンが転がっていたので、手に取ってみると、三年前に賞味期限は切れていた。



「遅かったか……」



 死んだのはつらいけど、なぜか悲しい思いにならなくてすんだ。

 これがもし、元のリアナだったら、俺は号泣していただろう。

 肉だるまのオッサンが死んでも、涙がこみ上げてこない。

 美雪がそばに立ち、



「助けないといけないわね」

「そうだな。早く救急車と警察を……」

「いいえ。あなたがやるの」

「はっ!?」



 彼女の顔を見ると、後ろの言左衛門に何か合図をしている。



「ふんっ!!」

「ぐはっ!?」



 後頭部を刀の鞘で殴られた。

 意識が飛んだ。

 起き上がると、見たことのない廃虚にいた。



「ぐはぁっ!」

「うわぁっ!?」



 廃虚の壁を突き破って、リアナが飛び出してきた。

 皮膚がところどころ赤くなっている。



「なんだぁ!? なんだなんだぁ!?」

「やかましい! 集中できんだろうがっ!」

「はいいっ!」



 リアナに怒られてしまった。

 鼻血まで出している。

 このバトル展開はいったい!?



「しぶといですね。いいかげん、この萌美にひざまずきなさい」



 金髪碧眼の幼女が、プリンを食べながら、穴のあいた壁から出てきた。


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