催眠によって掘り起こされた暗い過去

文字数 2,247文字

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映画ノベライズブログ(https://inaba20151011.hatenablog.jp/entry/2019/11/05/081526)


 食事が終わり、ケーキだらけの身体をシャワーで浴びる。

 萌美の部屋のベッドで、カメラをいじった。

 いろいろ撮れている。

 そういえば、お茶を入れてくれた使用人の日本人女性は、どこか様子がおかしかった。

 お茶が満杯なのに、あふれるぐらい入れてきたのだ。

 萌美のお母さんに注意されていた。

 日本人を使用人として雇っているのは、不況なので正社員の口がなかったかららしい。

 萌美はキリンさんのぬいぐるみを抱きしめ、



「もー! みんな態度悪すぎ! お父さん、あんなに社交的じゃなかったし、お母さんは使用人たちに厳しいし、弟なんて登録数が稼げないからって、お兄ちゃんにあたって!」

「いいさ。わかってたことだしな」



 異国の人間の扱いなんて、どこもこんなもんだろう。

 大阪にきて巨人の話をした東京の婚約者が、阪神ファンの嫁のお父さんにガチで怒られるようなもんだ。

 俺には萌美さえいればいい。



「お兄ちゃん。すんすん」



 シャワーを浴びた萌美がベッドにもぐり込んできた。

 俺を抱きしめ、顔をぐりぐりしてくる。

 彼女なりのいつもの甘え方だ。

 ベッドの上で、萌美を持ち上げて飛行機雲遊びをしたあと、疲れて寝てしまったので俺も眠る。

 誰かに見られているような気がして、ベッドから起きた。

 萌美はそばで寝息を立てている。

 タバコを吸いたくなったので、部屋を出て外に向かった。

 萌美の前では、さすがにタバコは吸えなかった。

 夜の庭でタバコを取り出していると、誰かが近づいてくる。



「ん?」



 夜に目が慣れてくると、それが日本人使用人の男性だとわかった。

 銀色の全身タイツを着ている。

 顔の部分だけがくりぬかれていた。

 ものすごいいきおいで、俺の元に走ってくる。



「うおっ!?」



 男は俺の前にくると、曲がってどこかに走り去ってしまった。

 なんなんだ? うわっ!

 家の窓から、すごい目で、日本人女性の使用人が俺をにらんでいた。

 よくよく見ると、般若の仮面をかぶっているだけだ。

 満足気にほほ笑むと、家の奥へと消えていく。

 ホラー映画かよ!

 気味が悪くなったので、タバコをやめて家の中に入った。



「タバコはいけないわ」

「ひっ!」



 ビクッと跳ね上がる。

 萌美のお母さんが小さな灯りの前で、イスに座っていた。



「娘の前では吸ってないわよね?」

「えっええ。もちろん」

「そう。なら良かったわ。お茶はどう?」

「いただきます」



 ここは素直に従っていたほうがいいだろう。

 イスに座り、お茶を飲んでいると、違和感に気づいた。

 萌美の母親は、やたらとカップの中でスプーンを回している。



「食事のとき気になったことがあったの。お母さんとの関係が悪いようね。何があったか話してくれない?」

「はっ話したく……ないです……」



 なんだ?

 言葉がうまく出てこない。

 あの残酷な過去は誰にも話したくないのに、彼女でなら話してもいいような気がしてくる。

 萌美の母親はキーンと、スプーンでカップをたたき、



「話すの」



 いきなり部屋の光景が変わり、俺は闇へと落ちていた。

 過去、俺は同人誌即売会に行っていた。

 自分で同人誌を描くこともできた。

 お気に入りの二次創作のキャラクターが出ている漫画を買い、興奮しながら家に帰り、男の欲望を発散させていた。

 突然ドアが開き、母親が入ってきて……、



「ノックして入ってこいよっ!」



 ベッドから起き上がると、朝になっていた。

 夢か?

 萌美は寝る格好が逆になり、俺に足を向けてイビキをかいていた。

 今日は萌美の親戚たちが来るらしい。

 黒塗りの車が次々と家の前に停車され、萌美の父が玄関を開く。

 みんな背中から透明な羽をはやした、姿形は萌美で、白髪のおばあさん、おじいさんたちだった。

 あれコスプレですかと聞くと、羽化した姿だという。

 萌美の母親が俺のとなりで、「萌美ももうすぐよ」とささやく。

 すっかり恐縮してしまった俺に、親戚たちの質問ラッシュがきた。



「日本人は七三分けにメガネにスーツなんだろう? カッコいいねぇ」

「殺人鬼がうじゃうじゃいるらしいね。真実は一つってね! 殺戮はいつ終わるんだい?」

「日本人は犬や猫を飼う人が多いらしいね。養殖して食うの? どんな味?」



 間違ってる日本人像に嫌気がさした。

 萌美と一緒に歩いていると、口には出されなかったけど、ロリコンという言葉がチラつく。

 同じ日本人を見つけたが、向こうは白髪の三十歳は離れているおばさんを連れて歩いており、同じ人種でも話しかけるのがキツかった。

 どこかで見たことがある。

 あとで言左衛門に写真を送っておこうと思い、スマホのカメラを向ける。

 昼なのにフラッシュが出てしまった。

 あわててしまうが、向こうはこっちをまばたきせずに見つめている。

 なんだ?

 鬼の形相でこちらに近づいてくる!



「出て行け!」

「うわっ!?」



 体が空中に浮かび、家の窓を突き破る。

 なんだ? この力は?

 気絶しつつある俺の目の前で、「出て行け!」と言った日本人に、わらわらと妖精さんたちがかぶさっていた。



「お兄ちゃん! しっかりして!」



 ああ、萌美に心配させちゃったなと、鼻をすすった。


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