萌美、やっと登場

文字数 2,355文字

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映画ノベライズブログ(https://inaba20151011.hatenablog.jp/entry/2019/12/30/203217)


 私は大学の図書館で調べ物をしていた。

 門平もきてほしかったのだけど、足が痛いと泣くので、病院に行ってもらった。

 気になったのは、【あの動画】の内容だ。

 30歳代のオッサン。

 警察に逮捕され、元人気動画投稿者。

 やつの正体がわかれば、リアナと宮本を取り戻せるはず。



「これはっ!?」



 私はとある1冊の本を手に取り、戦慄が走っていた。



『ももたろう』



 小学生低学年ぐらいの子が、私を見上げて読みたそうにしていたけど、無視だ。

 鬼退治に向かう桃から生まれた少年。

 犬、サル、キジをきびだんごという、中毒性のあるお菓子で誘い、まんまと仲間に加えた。

 彼らは鬼ヶ島に向かい、鬼退治という名目で、鬼を皆殺しにして金銭を奪っていく。

 この桃太郎こそ、あの動画で猫に餌をやり、中毒性にさせた、オッサンなのではないだろうか?

 私はこの推理を門平にひろうしたくて、携帯に電話してみた。

 出たのは病院の看護師だった。



「あの、門平君は……」

「ああ、彼女さんですか?」

「ちっ違いますよ!」

「ちょっと、迷惑してるんですよ。彼、急に『何かが飛びついてきた!』って、病室荒らしまわって、お金払わずに出ていったんですから……」



 私は門平の彼女ではないのだけれど、愚痴を聞かされたあげく、最後には悪いわけでもないのに謝り、電話を切られた。

 死にたい。

 言左衛門がまだ失踪していなかった、儀式を行った森に向かう私。

 特に理由はなかったんだけど、なぜか足が向いてしまった。



「あーあ。こういうときに、クールなイケメン男子がさりげなく助けにきてくれないかしら」



 枯れた葉っぱを踏みながら、木々の間を通りすぎていく。



「――そんな少女漫画みたいな展開、絶対ねぇよ」

「えっ!?」



 声をかけられたから、振り向いてみると、背中に触手の生えたオッサンが立っていた。

 白いシャツに短パンと、太めのおなかが揺れている。

 髪の毛はほぼ全滅。

 Tシャツの前面に書かれているロゴは、天国。



「……おまわりさん!!」



 脳が即犯罪者だと判断し、私は警察に助けを求めるべく、森を走り抜けていく。



「失敬だぞ!」

「ぎゃ!!」



 足がからまって転んだ。

 触手がすごいいきおいでのびてきた。

 私はお尻をすりながら後ずさり、



「あっ、あんたが萌美なの!?」

「そうだよ。俺が萌美だよ。変なおじさんじゃねぇぞ」

「いやだぁ!! 触手でいやらしいことされる!!」

「言うと思ったけど、やらないね! 別に俺はモラルが高いわけじゃなく、俺は俺しか愛してないからだ! この触手は自分自身を高めるための飾りさ!」

「邪魔にならないの!?」



 自慢する萌美に、私はつい叫んでいた。

 かわいらしい名前だけど、見かけはグロテクスな都市伝説級の化け物だ。

 触手の意味がない!



「お前に真実を教えてやるよ」



 触手のオッサンは私に近づいてくる。

 喉を鳴らす。

 門平たちの居場所を教えてくれるのだろうか?

 オッサンが急に走りだし、



「イケメンがクールに見えるのは友達が少ないからなんだよ!! やつらは男からも威圧感があって近寄りがたいから、孤独を味わうしかないのさ!!」

「ちょちょちょっと!!」

「あとイケメンはほぼ確実に浮気してるからなぁ!!!!」

「いやぁぁぁっ!! 聞きたくない!!」



 私にオッサンがおおいかぶさってくる。



「ぐふうっ!?」



 オッサンは私から離れると、口から血を吐き出す。

 Tシャツの胸のあたりから、赤い血が染まっていた。

 私の手には隠しナイフがあった。



「いてぇ。やるじゃねぇか……。正確に心臓を狙ってきやがって、あと数センチ、ズレてなかったら、即死だったぜ」



 座り込むオッサン。

 私はとどめをさすべく、オッサンに向かっていく。

 現実の醜いものは封殺しておかなければならない。



「まっまて……。俺を殺すつもりか」

「もちろんよ」

「くそぉ……。泣きながら悲鳴を上げて逃げるかと思ったら、殺意をため込んでいやがった。軽く言いやがって。だがな。この姿を見ても、その殺意をたもっていられるかな?」



 オッサンが光に包まれる。

 まぶしい。

 この神々しい光はなんだ?



「ふにゃあああああああああああ!!」



 オッサンは両腕を振り上げ、首を天へと向け、光に飲み込まれようとしている。

 発情期なの?

 なんという汚い声なのだろう。

 オッサンの背が縮んでいき、金髪碧眼の幼女になると、



「どうじゃこの姿! かわいらしくなった俺に手をだせるかな!? これで俺は刑務所を脱走してきっ、あうちっ!?」



 私はようしゃなくビンタする。



「やめろ! その子に手を出すな!」



 空から大声が落ちてきたので、見上げると、門平、言左衛門、リアナの3人が、大きな木の枝に立っている。

 バックには赤い月が見えていた。

 3人とも背中から触手がはえている。

 何その無駄なカッコいいポーズ!



「美雪ちゃ~ん。高い所、平気になったよぉ~」



 リアナがのんきに手を振ってきた。



「ふふっ、やつらは触手と、俺の魅力に取りつかれた者たちだ。触手連合会っていってな。エロは目的としてねぇ。ただカッコよく、動画映えしてればいい。今会員に入れば、ポイント2倍だぜ」

「ばっ、バカなことを言わないで……」



 私は拳を震わせると、



「なるっ!!」

「おっ、おう……」



 萌美は私の迫力に負け、会員になることを許し、背中に触手を設置した。



 こうして私たちは行方不明になった。





スレンダーマン【了】


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