第2話 アイザワくんとの出会い
文字数 1,180文字
四月だった。そしてぼくは人見知りだった。
新入生ゼミでうまく立ち回れなかったぼくは日々を孤独に過ごしていた。大学と家をただ往復するだけの毎日だった。退屈だった。
アイザワ君をはじめて意識したのは、線形代数学の講義の第二回目だったかと思う。
彼は教室の隅で頬杖をついていた。とんでもなくつまらなそうな顔をしていた。見かけるたびにその調子なので、誰も彼に声を掛けようとはしなかった。いったい何がそんなに気に入らないのか、みんな訝っていた。
ぼくが彼に近づいたのは、正直、邪な気持ちからだった。つまりはこんなに一人ぼっちでいる人なら、ぼくでも友達になれるかもしれないと思ったのである。
ともかく、なぜそんなにつまらなそうなのかと質問してみた。すると意外にもあっさりとした答えが返ってきた。
「別につまらなくないけど」
話してみると案外彼は普通の人だった。それどころか、並々以上だとわかった。彼は非常に頭がよく、向上心が強い。他にも色々知った。人混みがとても嫌いなこと。群れたがらないこと。自分について話したがらないこと。
ところで、ぼくには尊敬している人が二人いる。一人は物理学科の才女・ノノハラさんだ。彼女は学内のポスターにもなっている。ぼくらと同年齢でありながら、既に研究室に属し、宇宙物理学に関する実験にも参加し、論文も書き、学会で発表もしている。
そしてもう一人が、アイザワ君である。
彼には物理学科の才女のような目立った実績はない。しかし、彼には普通の人とは違う魅力があった。
「不思議だね。ゴールデンウィークを過ぎたら、キャンパスから人がいなくなったみたい」
とぼくが言った時、アイザワ君はぜんぶわかっていたような顔をした。まるでスナフキンみたいだった。
「あの人達が大学に来ている目的は、ぼくたちと同じではないからね」
アイザワ君はかなり、おもしろい。正直言って、彼以外との関わりが少々退屈に感じられるぐらい、彼はユニークだった。
そんな彼が、ある日突然、ぼくに言った。
「今度、最新のVRゲームが出るって知ってるか。圧倒的な没入感。それはもはや現実のような――」
ぼくらはその日から、ゲームに熱中した。あんまり熱中するので、プレイ中にアイザワ君の母親が部屋に怒鳴り込んでくることさえあった。暴れるようなガシャガシャという音がして、心配になることもあった。そういうときはたいてい「ごめん。親が怒ってて」と彼が言って、解散になった。
まあ、親が責める気持ちもわからなくはない。はっきり言って、熱中しすぎだ。もはやタイムアタック中毒者である。
世界記録保持者のぼくたちが次に掲げた目標は、カップ麺を超えることだった。だが大きすぎる野望に技術がついていかず、とうとうぼくらは匙を投げることになった。
「最後に試したいことがある」
彼がそう言ったのも、そんなときだった。
新入生ゼミでうまく立ち回れなかったぼくは日々を孤独に過ごしていた。大学と家をただ往復するだけの毎日だった。退屈だった。
アイザワ君をはじめて意識したのは、線形代数学の講義の第二回目だったかと思う。
彼は教室の隅で頬杖をついていた。とんでもなくつまらなそうな顔をしていた。見かけるたびにその調子なので、誰も彼に声を掛けようとはしなかった。いったい何がそんなに気に入らないのか、みんな訝っていた。
ぼくが彼に近づいたのは、正直、邪な気持ちからだった。つまりはこんなに一人ぼっちでいる人なら、ぼくでも友達になれるかもしれないと思ったのである。
ともかく、なぜそんなにつまらなそうなのかと質問してみた。すると意外にもあっさりとした答えが返ってきた。
「別につまらなくないけど」
話してみると案外彼は普通の人だった。それどころか、並々以上だとわかった。彼は非常に頭がよく、向上心が強い。他にも色々知った。人混みがとても嫌いなこと。群れたがらないこと。自分について話したがらないこと。
ところで、ぼくには尊敬している人が二人いる。一人は物理学科の才女・ノノハラさんだ。彼女は学内のポスターにもなっている。ぼくらと同年齢でありながら、既に研究室に属し、宇宙物理学に関する実験にも参加し、論文も書き、学会で発表もしている。
そしてもう一人が、アイザワ君である。
彼には物理学科の才女のような目立った実績はない。しかし、彼には普通の人とは違う魅力があった。
「不思議だね。ゴールデンウィークを過ぎたら、キャンパスから人がいなくなったみたい」
とぼくが言った時、アイザワ君はぜんぶわかっていたような顔をした。まるでスナフキンみたいだった。
「あの人達が大学に来ている目的は、ぼくたちと同じではないからね」
アイザワ君はかなり、おもしろい。正直言って、彼以外との関わりが少々退屈に感じられるぐらい、彼はユニークだった。
そんな彼が、ある日突然、ぼくに言った。
「今度、最新のVRゲームが出るって知ってるか。圧倒的な没入感。それはもはや現実のような――」
ぼくらはその日から、ゲームに熱中した。あんまり熱中するので、プレイ中にアイザワ君の母親が部屋に怒鳴り込んでくることさえあった。暴れるようなガシャガシャという音がして、心配になることもあった。そういうときはたいてい「ごめん。親が怒ってて」と彼が言って、解散になった。
まあ、親が責める気持ちもわからなくはない。はっきり言って、熱中しすぎだ。もはやタイムアタック中毒者である。
世界記録保持者のぼくたちが次に掲げた目標は、カップ麺を超えることだった。だが大きすぎる野望に技術がついていかず、とうとうぼくらは匙を投げることになった。
「最後に試したいことがある」
彼がそう言ったのも、そんなときだった。