第4話 目の前にある過去

文字数 870文字

「おれたちは夢でも見てるのか」
 アイザワ君もすぐに降りてきた。
 彼は、ぼくがしたように周囲の様子を見回す。だが彼はぼくよりは頭が回る。驚いてばかりではなく、この世界で自分たちにできることを調査しはじめたのである。
それで手始めにぶっ放したのが、拳銃であった。閑静な住宅街に、突然発砲音が響く。ぼくは椅子からひっくり返りそうになった。
 慌てるぼくを、彼はなだめる。
「見なよ。誰も俺らには気が付いてない」
 彼は、そばにいたおばさんたちの周囲をぐるぐるとまわりはじめた。なるほど、まったく反応がない。そういえば、空から人が降ってきても無反応だった。
 ぼくも彼に倣って実験をした。
 このゲームでは、二人プレイの場合にそれぞれ能力が与えられる。銃を〈撃つ〉ことと、〈細工〉をすることだ。ぼくはいろいろな物体に近づいて、〈細工〉できないか試してみた。それですぐわかった。できない。
「どうやら、ぼくは役立たずらしい」
 ぼくはがっかりして言った。
「そうか。でも、銃も役に立つとは言えないよ。まだ研究しなくてはね。しかし今は、他に調べたいことがあるんだ。ついてきてくれ」
「もちろん」
 アイザワ君はすっすっと移動をはじめる。
 迷いのない動きは、まるで道順がわかっている風である。実に不思議だ。
「もうすぐだ」と彼は言った。
 目の前には白い建物。小学校らしい。閉じられた正門からプールや体育館、駐車場、そして中庭がちらりと見えている。門は押せば開きそうだが、どれだけぶつかっても手ごたえがない。
「ここはおれの小学校だよ。間違いない」
「それじゃあ、この町って……」
 ぼくは驚いた。ゲーム内に自分たちのいる町が再現されているのだ。
アイザワ君は大学のある方角を教えてくれるが、ぼくにはぴんと来ない。ぼくは家と大学を往復するぐらいしか、この町に慣れていないせいだ。
「それにただの再現じゃあない」
 アイザワ君はやっぱりなにもかもわかっているみたいに、また校舎のほうに目を向けた。
「実はこの校舎は、いま現在既にないのだ。老朽化が原因でね。今はピンク色の奇抜な建物になっているよ」
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