第13話 時間的限界
文字数 1,373文字
ぼくらは丸太橋に立って、ぼんやりと目の前の滝を眺めて過ごした。サクラさんが死んで流れてくることもありえる。
滝つぼには、いろいろなゴミが浮いていた。時折、水の流れに押されて下流に飛び出していく。木の葉や枝はもちろん、サッカーボール、幼児用の木椅子、包装紙、パソコンもあった。とにかくなんでも。だが死体はない。
「ずいぶん不法投棄が多いんだね」
「川にゴミを捨てる輩がけっこういるのは間違いない。でも現実の滝はもっときれいだよ」
「なぜだろう」
「さあ、水源でなにか起きているのか……」
「本当に不思議だなあ。作りこまれているのかいないのかわからない」
「厳密な過去ではないのだね。川にゴミが溜まっているのもこのゲームの仕様のひとつに違いない。正直なところ、よくわからないけど」
どれぐらい、二人でそうしていただろう。
ぼくらは色々と議論をしたり、他愛のないおしゃべりをしたりしながら、その時が来るのを待っていた。
だが突然、目の前が真っ青になった。これは比喩ではない。本当に真っ青になったのだ。青色しか見えない。「あっ!」とぼくらは同時に叫んだ。そして画面にはゲームエラーと出ている。そしてこの文言。
「不具合を報告しますか?」
ぼくらは迷わず「いいえ」を選択した。報告されてたまるか。
「困ったな、こんなときに」
アイザワ君がため息をつく。ぼくもため息をつく。なにしろキャンプ場までの道のりは四時間かかる。それをもう一度やり直すのだ。
その後、ぼくらは寝る間も惜しんでもう一度挑戦した。やはり四時間かかった。窓の外はもうすっかり朝である。しかし結果は同じだった。どうやらゲームはある時点でエラーを起こしてしまうらしかった。
「つまりここが終点なのだね」
アイザワ君が言った。ぼくは睡眠不足でふにゃふにゃと机に突っ伏した。だとすると、これから新たに作戦を練り直さなければならない。……しかし正直もう眠かった。
日中はお互いひどい顔をして授業を受けた。
やはり数時間程度の休養で徹夜の疲労を回復させるのは難しかったようだ。合理的な人間なら夜更かしなどするべきではない。
そしてその晩、ぼくらはまたゲームをした。とにかく歩き回って手がかりを見つける作戦である。ぼくらはたいていこういう地道な努力で道をひらいてきた。凡人は試行回数が大事だ。
だが結果からいえば、はっきり言って何もなかった。ただ誰もいないキャンプ場を歩き回っただけだ。ゲームは再び、空しくエラーを出した。青い画面を見るたびに精神が衰弱する。また四時間だ。がくりと肩を落とした。
「なんとか短縮できないかな」
と話し合うものの、妙案は出ない。仕方がないのでまた四時間歩く。後ろからやってくるバスに追い越され、自分たちも乗れたらいいのにと何度思ったか知れない。
隅々まで見て回った。だが別に何もなかった。サクラさんどころか、誰とも顔を合わさない。丸太橋より先はまったくの無人だ。
「仕方がない。母さんに頼ろう。保護者会の繋がりで事故の詳細を知っている人にあたれるかもしれない」
「頼めるのかい」
ぼくはアイザワ君のお母さんの恐ろしい表情を思い出して、ちょっと彼が心配になった。彼はおもしろそうに笑った。
「人の親を化け物みたいに思ってないか」
「ごめんよ。あまりにも出会いが悪くて」
「いい人だよ。まあ、時と場合によるが」
滝つぼには、いろいろなゴミが浮いていた。時折、水の流れに押されて下流に飛び出していく。木の葉や枝はもちろん、サッカーボール、幼児用の木椅子、包装紙、パソコンもあった。とにかくなんでも。だが死体はない。
「ずいぶん不法投棄が多いんだね」
「川にゴミを捨てる輩がけっこういるのは間違いない。でも現実の滝はもっときれいだよ」
「なぜだろう」
「さあ、水源でなにか起きているのか……」
「本当に不思議だなあ。作りこまれているのかいないのかわからない」
「厳密な過去ではないのだね。川にゴミが溜まっているのもこのゲームの仕様のひとつに違いない。正直なところ、よくわからないけど」
どれぐらい、二人でそうしていただろう。
ぼくらは色々と議論をしたり、他愛のないおしゃべりをしたりしながら、その時が来るのを待っていた。
だが突然、目の前が真っ青になった。これは比喩ではない。本当に真っ青になったのだ。青色しか見えない。「あっ!」とぼくらは同時に叫んだ。そして画面にはゲームエラーと出ている。そしてこの文言。
「不具合を報告しますか?」
ぼくらは迷わず「いいえ」を選択した。報告されてたまるか。
「困ったな、こんなときに」
アイザワ君がため息をつく。ぼくもため息をつく。なにしろキャンプ場までの道のりは四時間かかる。それをもう一度やり直すのだ。
その後、ぼくらは寝る間も惜しんでもう一度挑戦した。やはり四時間かかった。窓の外はもうすっかり朝である。しかし結果は同じだった。どうやらゲームはある時点でエラーを起こしてしまうらしかった。
「つまりここが終点なのだね」
アイザワ君が言った。ぼくは睡眠不足でふにゃふにゃと机に突っ伏した。だとすると、これから新たに作戦を練り直さなければならない。……しかし正直もう眠かった。
日中はお互いひどい顔をして授業を受けた。
やはり数時間程度の休養で徹夜の疲労を回復させるのは難しかったようだ。合理的な人間なら夜更かしなどするべきではない。
そしてその晩、ぼくらはまたゲームをした。とにかく歩き回って手がかりを見つける作戦である。ぼくらはたいていこういう地道な努力で道をひらいてきた。凡人は試行回数が大事だ。
だが結果からいえば、はっきり言って何もなかった。ただ誰もいないキャンプ場を歩き回っただけだ。ゲームは再び、空しくエラーを出した。青い画面を見るたびに精神が衰弱する。また四時間だ。がくりと肩を落とした。
「なんとか短縮できないかな」
と話し合うものの、妙案は出ない。仕方がないのでまた四時間歩く。後ろからやってくるバスに追い越され、自分たちも乗れたらいいのにと何度思ったか知れない。
隅々まで見て回った。だが別に何もなかった。サクラさんどころか、誰とも顔を合わさない。丸太橋より先はまったくの無人だ。
「仕方がない。母さんに頼ろう。保護者会の繋がりで事故の詳細を知っている人にあたれるかもしれない」
「頼めるのかい」
ぼくはアイザワ君のお母さんの恐ろしい表情を思い出して、ちょっと彼が心配になった。彼はおもしろそうに笑った。
「人の親を化け物みたいに思ってないか」
「ごめんよ。あまりにも出会いが悪くて」
「いい人だよ。まあ、時と場合によるが」