第27話 ゴミの秘密

文字数 1,571文字

 ぼくはアイザワ君に、ノノハラさんのことを何も伝えなかった。命を消すことの重みと責任を、彼には感じていて欲しかった。
 彼はゲーム内でバスに背中を押そうとしてもらったり、車体に乗ろうとしたり、いろいろな実験を重ねていた。だが実のところ、それらはすべて前に試したことがある。すべて失敗だった。
「ちょっと手伝ってくれないか」
「どうするんだい」
「二人で大きいゴミを探して、車の前に設置するんだ。ゴミはすり抜けないだろ」
 今度はゴミに背中を押してもらう作戦だ。それで早速、道路に向かって色々転がしてみようと決めた。ゴミには小物が多いのでたくさん集めて補った。準備が整ったところで、ちょうど突っ込んできた車に向かって身を投げ出してみた。
 結果は失敗。ゴミはあっという間に弾き飛ばされ、車はぼくらをすり抜けて行く。
 だがアイザワ君はあきらめない。またゴミを集めてなにかしている。ぼくはそれをそばで見ている。「疲れているみたいだから、少し休んでいてくれ」と彼に言われたからだ。
 キャンプ場にたどりつけない問題は、どうしても解決しそうにない。ノノハラさんならどうするだろうか。ゲームを解析して、裏技を発見してしまったりするのだろうか。
「アイザワ君、ぼくも手伝うよ」
 ぼくはじっと黙っていることができなくなった。彼が集めてきたゴミ山を前に、考え込む。ぼくが参加したからといってなにかいい案が出るわけでもない。相も変わらず袋小路である。
「それにしても、本当にゴミが多いね。これは全部天井川から拾ってきているんでしょ」
「うん、ゴミだらけさ」
 ぼくはゴミを拾いに、彼といっしょに天井川にのぼった。すると上流のほうから、どんぶらこ、どんぶらこ、とゴミが流れてくる。
「環境破壊だね。よくないね」とぼく。
「まあ、ゲームの中だからね」
「そうか。現実ではひどくないんだったね」
 ぼくは滝つぼに堆積していたゴミ山を思い出した。現実との不思議な相違についてしばらくもやもやと考える。そういえばノノハラさんも、天井川のゴミの多さには驚いていた。
 ちょうどその時、自転車に乗った一人の若者が、スナック菓子の袋を川に放り投げて行った。袋はぷかりと浮いて、下流に進んでいく。ゲームだけれど、ポイ捨てはなんとなく嫌な気持ちになるものだ……と思い、流れて行く袋を見つめていて……あれ、と思った。
「アイザワ君、今度はぼくのほうから提案したいんだ。いいだろうか」
「どうするんだ?」
「あの袋を追いかけてみよう」
 それは、ちょっとした思いつきだった。
 ぼくらは川の中に入った。そして下流に向かって歩き始めた。
「こんなことをして、何になるかわからない」
 とアイザワ君が文句を言った。
「急がば回れだよ。近道を探すなら、遠回りをしてみなくちゃ。ぼくらはずっとそうやってやってきたじゃないか」
 ぼくは歩きながら、改めて思い出す。
滝つぼに溜まっていたゴミたちを。
シーズン外で、まったく人気のないキャンプ場に、ゴミが浮かんでいる。あんな風にスナック菓子の袋を捨てて行く迷惑な人もいないのに――それで、思いついたのだ。
「他のものは寸分たがわず作ってあるのに、なぜゴミ山だけは違うのだろう。そう考えたときに思ったんだ。それはこのゲーム自体の仕組みに由来しているのではないか。これはアイザワ君の仮説でもあったね」
「つまり?」
「ここのゴミは、一度川に入ると外に出ることがないんだ。つまり、この川はどこにも通じていない。河口と水源を結び目にして、川はループしているんだよ」
 ぼくらは一時間ほど歩き続けた。
 そして、とうとう世界が途切れるのを見つけた。川は途切れて、虚空に流れ込んでいる。
 そのとき、画面が青く染まる。エラーが起きたのだ。ぼくらは再びゲームを始めた。
「行こう」とぼくは言った。
 世界の果てから、その向こう側へ。
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