第29話 永遠に続く死
文字数 1,710文字
まただ。
ぼくは、アイザワ君が努力するのをじっと見守っている。川原のゴミをすべて投げ込み、広場に持ち込み、それで悲劇を回避しようというのである。
第一に、滝つぼをゴミでいっぱいにした。クッション代わりにするという。だがサクラさんは死んだ。
第二に、サクラさんと幼いアイザワ君の間をゴミで埋め尽くし、会話できないようにする作戦だ。サクラさんは死んだ。
第三に、彼はとうとうクラスメイト全員を殺そうと言い出した。クラスさえなければ何か変わるかもしれない、と言う。バカバカしい。ぼくは必死にやめさせた。もちろん、サクラさんは死んだ。
それから第四に……。
アイザワ君の努力はいつまでも続く。無駄な努力だ。もはやそこには何の理屈もない。ただの努力。何かをしているだけ。発展性もない。そしてそのたびにサクラさんは予定通り死ぬ。一体何度、彼女の死に顔を見たことだろう。
そしてまた、サクラさんは死ぬ。何度も、何度も死ぬ。滝つぼに叩きつけられて。きっと下に岩でもあったのかもしれない。よくわからない。ともかく死ぬ。死ぬ。死ぬ。
いくつめのプランだったか、アイザワ君はサクラさんが乗る予定のバスをパンクさせようと言い出した――できるわけがないのに。タイヤに影響を与えることなどできないし、何よりサクラさんはおそらく、ぼくたちがこの世界に来た時点でバスに乗っている。
もう無理だ。
アイザワ君もいい加減、気づきはじめていたと思う。サクラさんを救う方法などないことに。いや、正確には、サクラさんを救う方法があるとすれば、たったひとつしかないことに。
「そうだ」と彼は言った。「やっぱりクラスメイトの女子を全員殺そう。そうすれば、サクラが誰かと話すこともないじゃないか」
アイザワ君は、ほとんど錯乱している。
彼女の命日に今更クラスメイトを殺したところで、なんの意味もない。その程度のこと、考えればすぐにわかることなのに。
ぼくはとうとう我慢できなくなった。
「もう、やめようよ」
「は?」
アイザワ君は、怒りをむき出しにした。ぼくは怖くなって、口をつぐむ。ぼくは臆病な人間だ。ぼくは情けない。そしてまた彼の無意味な計画に寄り添うのだ。
ひとつ。サクラさんにぶつかって位置を変える作戦。サクラさんは死んだ。
ふたつ。大急ぎで広場へ行って、彼らが出て来た茂みをゴミでふさいでしまう作戦。もちろんサクラさんは死んだ。
ぼくは無駄な努力を重ねるアイザワ君をじっと見ている。ただじっと、見つめている。
何日経ったかわからない。
何か月経ったかわからない。
何回挑戦したかわからない。
「君もなにか案を出してくれよ」
アイザワ君は、いつもの住宅街でぼくを責めた。そこはぼくたちにとっての、この世界のはじまりの場所だ。そばではおばさんが世間話をしている。「ねえアナタ聞いた? 自由にさせるのはいいけど、最近物騒だから、心配よねえ……」
ぼくにはアイディアなどない。一体、どんなアイディアがありえるというのだろう。
サクラさんたちは、既に山にいる。ぼくらがどれだけ急いでも、口論の現場にようやくたどりつくだけ。サクラさんは誘われるように、導かれるように、すぐに死ぬ。
ふらふらとサラリーマンが歩いてきた。その人がアイザワ君にぶつかった。もちろんぱっと姿を消し、何事もなく歩いていく。「邪魔だ」アイザワ君は、今まで聞いたこともないような低い声を出した。「邪魔だ!」
アイザワ君はサラリーマンに銃を向け、なんの躊躇もなく〈撃った〉。頭に穴があき、動かなくなってしまう。〈撃つ〉行為が、彼の中でどんどん軽くなる。
「もう、やめよう」と、ぼくは言った。
コントローラーを投げ出した。投げ出した音は、アイザワ君にも届いたはずだ。
「サクラの命を、あきらめるのか?」
「あきらめる」
「君は、サクラと関係ないからな」
「いい加減にしてよ!」
ぼくは言った。怖くて声が震えた。
「自分がやったんじゃないか。誰のせいでもない。おじさんでも、ノノハラさんでも、いま殺したサラリーマンでもない。自分が、アイザワ君が、サクラさんを殺したんだぞ。人のせいにするな。ぜんぶ、ぜんぶ、自分がやったことじゃないか!」
ぼくは、アイザワ君が努力するのをじっと見守っている。川原のゴミをすべて投げ込み、広場に持ち込み、それで悲劇を回避しようというのである。
第一に、滝つぼをゴミでいっぱいにした。クッション代わりにするという。だがサクラさんは死んだ。
第二に、サクラさんと幼いアイザワ君の間をゴミで埋め尽くし、会話できないようにする作戦だ。サクラさんは死んだ。
第三に、彼はとうとうクラスメイト全員を殺そうと言い出した。クラスさえなければ何か変わるかもしれない、と言う。バカバカしい。ぼくは必死にやめさせた。もちろん、サクラさんは死んだ。
それから第四に……。
アイザワ君の努力はいつまでも続く。無駄な努力だ。もはやそこには何の理屈もない。ただの努力。何かをしているだけ。発展性もない。そしてそのたびにサクラさんは予定通り死ぬ。一体何度、彼女の死に顔を見たことだろう。
そしてまた、サクラさんは死ぬ。何度も、何度も死ぬ。滝つぼに叩きつけられて。きっと下に岩でもあったのかもしれない。よくわからない。ともかく死ぬ。死ぬ。死ぬ。
いくつめのプランだったか、アイザワ君はサクラさんが乗る予定のバスをパンクさせようと言い出した――できるわけがないのに。タイヤに影響を与えることなどできないし、何よりサクラさんはおそらく、ぼくたちがこの世界に来た時点でバスに乗っている。
もう無理だ。
アイザワ君もいい加減、気づきはじめていたと思う。サクラさんを救う方法などないことに。いや、正確には、サクラさんを救う方法があるとすれば、たったひとつしかないことに。
「そうだ」と彼は言った。「やっぱりクラスメイトの女子を全員殺そう。そうすれば、サクラが誰かと話すこともないじゃないか」
アイザワ君は、ほとんど錯乱している。
彼女の命日に今更クラスメイトを殺したところで、なんの意味もない。その程度のこと、考えればすぐにわかることなのに。
ぼくはとうとう我慢できなくなった。
「もう、やめようよ」
「は?」
アイザワ君は、怒りをむき出しにした。ぼくは怖くなって、口をつぐむ。ぼくは臆病な人間だ。ぼくは情けない。そしてまた彼の無意味な計画に寄り添うのだ。
ひとつ。サクラさんにぶつかって位置を変える作戦。サクラさんは死んだ。
ふたつ。大急ぎで広場へ行って、彼らが出て来た茂みをゴミでふさいでしまう作戦。もちろんサクラさんは死んだ。
ぼくは無駄な努力を重ねるアイザワ君をじっと見ている。ただじっと、見つめている。
何日経ったかわからない。
何か月経ったかわからない。
何回挑戦したかわからない。
「君もなにか案を出してくれよ」
アイザワ君は、いつもの住宅街でぼくを責めた。そこはぼくたちにとっての、この世界のはじまりの場所だ。そばではおばさんが世間話をしている。「ねえアナタ聞いた? 自由にさせるのはいいけど、最近物騒だから、心配よねえ……」
ぼくにはアイディアなどない。一体、どんなアイディアがありえるというのだろう。
サクラさんたちは、既に山にいる。ぼくらがどれだけ急いでも、口論の現場にようやくたどりつくだけ。サクラさんは誘われるように、導かれるように、すぐに死ぬ。
ふらふらとサラリーマンが歩いてきた。その人がアイザワ君にぶつかった。もちろんぱっと姿を消し、何事もなく歩いていく。「邪魔だ」アイザワ君は、今まで聞いたこともないような低い声を出した。「邪魔だ!」
アイザワ君はサラリーマンに銃を向け、なんの躊躇もなく〈撃った〉。頭に穴があき、動かなくなってしまう。〈撃つ〉行為が、彼の中でどんどん軽くなる。
「もう、やめよう」と、ぼくは言った。
コントローラーを投げ出した。投げ出した音は、アイザワ君にも届いたはずだ。
「サクラの命を、あきらめるのか?」
「あきらめる」
「君は、サクラと関係ないからな」
「いい加減にしてよ!」
ぼくは言った。怖くて声が震えた。
「自分がやったんじゃないか。誰のせいでもない。おじさんでも、ノノハラさんでも、いま殺したサラリーマンでもない。自分が、アイザワ君が、サクラさんを殺したんだぞ。人のせいにするな。ぜんぶ、ぜんぶ、自分がやったことじゃないか!」