第1話 道標

文字数 776文字

 十月の秋晴れの日曜日、石井ファミリーは市内の自宅から車で一時間ほどのキャンプ場へ向かっていた。車内は小学一年生になる一人息子の海人が大好きなアニメソングを大声で歌い、久しぶりの家族揃ってのお出かけということもあり大はしゃぎだった。だが、運転している大樹は気分が重たかった。

 実は先月、新潟を襲った大型の台風により故郷の村は大打撃を受けていた。山が崩れ村の半分が埋まってしまい死者も多数出てしまっていたからだ。遠方からのボランティアの力も借りて、各家の復旧は進んでいるが、元の状態に戻るにはニ、三年かかるのではないかという村民の話を聞いていた。
 子供の頃、よく遊んでいたキャンプ場だった場所は、片付けが進み、先週ようやく立ち入り禁止が解除されたという。それでもまだ、大量の土砂に混ざって、大きな流木が川のいたるところに残されている状態だということだった。川と山のバランスが崩れた景色が目に浮かび秋晴れの天気とは対照的に複雑な気分だった。

 大樹の両親は、二年前に相次いで病気で他界した。村の子供の人数が減少し、大樹が教師として村の学校で働いたのは二年だけだった。海人が小学校に上がるタイミングで思い切って両親の家を処分し市内の中古住宅に引越した。
 幸いなことに大樹の両親は当時、市内の病院に入院しており、村の災害や学校の閉鎖については知らないまま天国へと旅立った。このまま安らかに眠りについてほしいという大樹の願いが、結果的に天に届いたかたちとなった。

 一方、五年前に他界したサチの祖父母の家は今も空き家のまま残っていた。両親が夏の間に二回くらい草刈りをしたり、家に風を入れに東京からきているというような状況だった。

 災害から約一ヶ月が過ぎた。そんな村の様子が気になり、一度見に行ってきてほしいとサチの両親に頼まれたこともあり今日のドライブとなったのだ。
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