第44話

文字数 1,491文字

 サチは翌日からさっそく動いた。
仕事に支障がでてはまずい。ただ、仕事がら探偵の知り合いは何人かいる。何かと密になっていた方が仕事がしやすいのはお互い様だ。

「ねぇ、私的な頼みがあるのよ。西井ユカって人を調べてほしいんだけど……」

 一週間後、サチは会社近くの喫茶店で、探偵の涼子さんと会っていた。
「おりょう、久しぶり。久しぶりすぎて失業してないか心配したわ」
「残念ながら、まだ、バリバリ仕事してるんですけどーーそんなことより、突然電話してきてさ、私用で頼み事なんて珍しいから、とことん調べてやったわよ」
 涼子はA4サイズの封筒をテーブルに雑においた。
「ありがとう。できる探偵さんの友達をもっていて幸せだわー」
 さっと目を通すと一万円札をテーブルに置いて席をたった。
「とても参考になったわ。ありがとう。じゃ、行くわね、ランチ頼んでおいたからゆっくりしてって」
「あら、気がきくわね」
「この借りは必ず返すからーーありがとう」
 おりょうさんとはサチが弁護士を始めた頃からの知り合いだ。仕事は早いし秘密もちゃんと守る。とても信頼している人物だ。今日も助けてもらったーー
 サチはそのまま大樹のアパートへ向かった。

 その夜、帰宅した大樹と調べた結果について向き合った。
 その資料によると、元夫との間に由紀という子供がいる、認知はしているが長いこと一緒に暮らしてはおらず、若くして結婚し家を出たーーとある。両親とうまくいっておらず、海外暮らしと。
「だから夫婦に子供はいないって言ってたのね。でも、そうなると……実はね、私に思い当たることがあるの。その推測が正しいどうかは、直接、西井ユカさんに聞くしかないーーと思ってる」
「それってどういうことなの?」
「私の推測なんだけどね……私が大樹を見つけるちょっと前、佐々木先生のお子さんの由紀ちゃんを先生が預かってたことがあるのよ。先生は、奥さんの体調不良って言ってたけど、実は妊娠してたんじゃないかって思ってる」
「そういえば、佐々木先生は、元奥さんが再婚したあとも由紀ちゃんたちと会ってたって言ってたな……」
「きっと佐々木先生との子供を妊娠したんだと思う。その頃、その資料によると、ご主人は一年間、海外出張に行ってるでしょ?大きくなるお腹を隠せなくなって、産まれるまでの三ヶ月くらいの間、ちょっと体調不良ということにして、由紀ちゃんを自分から遠ざけ、一人で出産したのではないかとーーそして、近くに養護施設があることを、佐々木先生が奥様に話をしていたとしたら……あの神社に大樹を置きざりにしたのは、誰かが必ず助けてくれるという確信があったからじゃないのかな。その予想通り、私が見つけた。出産したあとは、何事もなかったかのように、帰国したご主人との暮らしを営み……資料にあるように、子供があまり好きではなかったご主人と子供を望まなかったユカさんは、仕事に専念し二人で会社を守ってきたーーそんな私の予測」
「ということは、もし、サチの予測通りだとするなら、俺の父親は、佐々木先生で、母親は西井ユカさんってこと?」
「そうなるわね。そして由紀ちゃんは大樹の血の繋がった姉……かな」
「へぇー、なんかすごい推理だな。聞いてて他人事だったよ。でも、益々、自分の母親が誰なのかーーを知りたくなってきたよ。たとえ今の推測が違っていたとしても、俺はいつか本当の母親に会ってみたい……俺は母親を決して恨んだりしていない……こうしてサチが俺を見つけてくれたから」
 二人はきつく抱き合った。
「そうね……私が大樹を見つけた。そして大樹が私の気持ちを見つけてくれた。私はその人に感謝するわ……」
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