第24話

文字数 1,321文字

 祭囃子がだんだん大きくなってきて、サチの気持ちも一気にあがった。特設舞台ではのど自慢大会が行われていた。そういえば、タカシが漫才をやるとか言ってたな……
「ほら、ケン、金魚すくいとかやらない?」
「……みんな舞台の方で座って待ってるって」
「そっか、じゃあ先にそっちに行こうか……あとでやろうよ」
「うん、あとでな」
「あっ、アタル……」
「えっ?どうしたの?」
 サチは心の中でつぶやいたつもりだったが、大樹を見つけて思わず声に出して叫んでしまった。
 最近は自分だけのアタルでいてほしいと母性愛のような、姉弟愛のような、もしかしたら恋愛なのか分からない感情にサチは悩んでいた。
(私だけのアタル)
そんな気持ちを抑えられなくなってしまっている自分が怖かった。

 金魚すくいに夢中になっている大樹を見つけたが、隣にアタルちゃんがいることに気がついてなんとかその場をごまかした。
「アタルー、大樹ー」と手を振った。
二人も気づいて手を振りかえしてくれた。大樹は隣にいるケンジの方をチラッと見たが、また一旦、金魚に視線を戻してから遠ざかる二人の後ろ姿をじっと見つめていた。

 タカシの漫才は先輩とのドツキ漫才で[農村ズ]というふざけたコンビ名だったが、コンビを組んで五年目とあって、なかなか面白くってお年寄りにもそこそこウケていた。ユミとマリコは二人でウィンクの寂しい熱帯魚を歌って盛り上げていた。
 みんなの舞台が終わると、あとはそれぞれカップルに戻っていった。サチはちょっぴりぎこちなさを感じながらも、初恋のケンジと出店を楽しんだ。
「学校は楽しい?」
先を歩いていたケンジが振り返りながらサチにきいた。
「うん、楽しいよ。私ね、両親みたいな弁護士になるのが夢なの。だからまっすぐ夢に向かって進んでるって感じかな」
「そうなんだ……サチは昔からなんでもまっすぐだもんな」
「ケンは?学校楽しい?」
「うん。高校入ってスポーツも好きなんだけど前からバンドをやってみたくてさ……仲間を集めて、ようやく形になってきたところ。俺はボーカルとギター。ちゃんと曲ができたら、サチに聴いてほしいんだぁ。コンサートっていうの?……チケット送るから上手くなったら来てくれよ」
「へー、すごいね。もちろん行くよ。一番のファンになるよ」
「サチは今、付き合ってる人いるの?」
「えっ?……突然すぎる……実はいない。大学受験のことを考えると、それどころじゃないというか……」
「サチ、俺と付き合ってくれない?……返事は今じゃなくていいけどーー」
「えーっ、ケンと?」
「俺、マジなんだよ。前からサチのことが好きだった。今まで言い出せなくて……。でも離れてみてわかったんだよ。大好きなんだって」
「私もね、ユミとタカシが付き合いはじめたとき、まだケンジにチャンスありって思ったよ。ケンジが初恋だったから……」
 ケンジはサチを抱きしめた。
「ちょっとケンジ……」
「誰よりも大事にするよ、サチのこと……」
 しばらく二人は抱き合っていた。すると祭りの終わりの合図の花火がドカーンとあがった。驚いて離れた二人だったが、微笑んで恥ずかしそうに手を繋いで帰り道を歩いた。
 ケンジはサチを家まで送り「また、連絡するね」と帰っていった。

 
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