第17話

文字数 1,167文字

 東京に戻ってからは、部屋を綺麗に片付けて勉強に集中した。近所に友達がいないことが、かえって誰よりも集中できた。そしてサチは将来は両親ともに弁護士であることから自らも法律家の道に進むべく夢を抱いていた。
 高校は新宿にある都立高校を第一志望とした。選んだきっかけは、単に、父の出身校だったから。それでも応援してくれる両親の期待には絶対に応えようと思っていた。今まで自由に学ばせてくれた両親には心から感謝していた。
 だって新潟での生活がなければアタルとは出会えなかったのだからーー

 ある日、夕食の時間にお母さんがサチに話しかけてきた。
「私の友人でね、娘さんが引きこもりになってしまって困ってるの。小学二年生なんだけどねーーそれで、どこか治療できる場所を探していてねーー夏休みだけでも預けられるところはないかと相談を受けているの。それでね、思い出したのよ、サチが前に言ってたじゃない……ばあちゃんちのそばに施設ができたって。自閉症や家庭に問題のある子供たちを受け入れているところがあるとかって……」
「あー、いずみ園のことね。うん、園長先生は、恵比寿様みたいな人でね、あっ、見た目がよ。他の先生達もみんな明るくていい人たち。村の行事や学校の行事とかあるでしょ?そういうのは、みんなで参加するから顔見知りになったりするの。ばあちゃんに相談してみたら?」
「そう……じゃあ連絡してみようかな」

 それから一週間ほどしてーー
「そういえば、この前話した友人の子供の話ね、ばあちゃんが口をきいてくれて、夏休みの間だけ施設で面倒みてくれることになったの。来週から、いずみ園だっけ?そこに預けるんだって。少しは良くなるといいんだけど」
「へぇー、そうなの。あそこなら間違いなく元気になって戻ってくるよ。そういうところだよ」
「ずいぶんと自信があるのねぇ」
「だって東京と違って自然豊かで、本当にいいところよ。お母さんだって、故郷なんだからいいところだって知ってるでしょ?知ってるからこそ、その友人の力になってあげられるかも……って思ったんでしょう?」
「まぁ、そうね。図星かな」
「で、その子の名前はなんていうの?」
「えーっと……中川さんとこの……アタルちゃんっていってたかな……」
「えっ、アタル?女の子なのにアタルって名前なの?」
「どうかした?やたら気にするじゃないの……」
「えー、いや……アタルって普通は男の子の名前じゃないのかな……って思っただけ」
「ふーん、まぁ、今はどっちにもつけられる名前も多いからねぇ」
「そうだね、そうだよね……」
 サチはちょっぴり中川アタルという女の子が気になった。狭い村だからアタルちゃんの名前はあっという間に広がるだろう。
 小学校で同級で授業を受けることはないにしても、大樹ときっと会うことになるだろう。
 サチはなんだか胸騒ぎを感じた。
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