第41話

文字数 1,158文字

 それから三日ほど検査が続いた。幸いにも頭部に異常がみつからなかったため、大樹は退院した。全治三ヶ月と診断され外見は痛々しかったが、足の骨折がなかったので体を動かすことはできた。大樹の顔のアザや擦り傷は、一ヶ月もすると、ずいぶんよくなっていた。若い分、治りは早いようだ。この分なら骨折もあと一ヶ月くらいで完治するかもしれない。
 ハルキは大樹の事件を知り病院にかけつけてくれていた。
「大樹、俺のせいでごめん。俺があの日、ちゃんとバイトに行っていれば、大樹はこんなことにならなかったんだもんな」
「いいんだよ、ハルキが無事で良かった……ハルキのせいじゃない。引き受けたのは俺だから。それにホラ、この通り、ちゃんと生きてる」
ハルキは病室に居合わせたサチに深々と頭を下げた。
「大学で待ってるからな」と病室を出ていった。
 サチはちょっと送ってくるーーと言い後を追った。
「ハルキくん、ちょっと待って」
「はい、何か……」
「ねぇ、ハルキくんはどうしてあの日、あの店でバイトしようと思ったの?東京育ちのハルキくんなら、あの店がどういう店か知ってたでしょ?」
「はい……すみません。もうすぐ彼女の誕生日なんです。それで彼女が欲しがっていたバッグをどうしてもプレゼントしたくて、あとちょっとお金が足りなくて……だから、割りのいいバイトを選んで入れていました。もちろん、ちゃんと自分が行くつもりでいました。ところが、彼女がその日、急に熱を出してしまって寝込んでしまったんです。彼女、地方から出てきてるんで、東京で頼る人が俺しかいなくって……それで他の友達にバイト代わってくれないかと頼んでみたんだけど、みんなに断られちゃってーーそれで、最後に大樹に声をかけたんです。でも、大樹だけは声をかけるべきじゃなかった。バイトを当日キャンセルすると、自分の査定ポイントが下がっちゃうんです。時給に影響するし、次のバイトを探すのにハンデを背負うことになるんです。それがどうしても嫌で……大樹は絶対に断らないとわかってる……大樹には声をかけるべきじゃなかったんです。どこかに卑怯な自分がいました。大樹の優しさに甘えてしまったのです。お姉さん、本当に申し訳ありませんでした……僕の彼女は大樹とよく似ているんですよ……まっすぐなとことか雰囲気がね……だから大樹とはこれからも友達でいたいんです。大樹が許してくれるなら、ですけどね……」
「そうだったの……正直に話してくれてありがとう。大樹はね優しくて強い子なの。だからあとは、ハルキくんの気持ちが伝われば、きっともとどおり、仲良くなれると思うよ。大樹には正直に向き合ってほしいの。あの子はそういう子だから……」
「はい……そのつもりです。では、僕はここで……失礼します」
 ロビーのタクシー乗り場でハルキくんと別れた。
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