第37話

文字数 980文字

 翌日はパンで軽い朝食を済ませると、車でホームセンターを巡った。布団一式を購入し、その他、必要と思われる食器類や洗剤などの日用雑貨を揃えた。
「俺の生活のスタートなのに、なんだかサチ姉が一人暮らしするみたいだな」
「あっ、ごめん。ちょっとおせっかいすぎた?」
「そういうわけじゃないけど、サチ姉の方が楽しそうだから」
「そうかな……だってほら、新しい物を揃えるのは気分が上がるしさ」
「ほんと、それだけ?」
「どういう意味よ」
「ほんとに彼氏とのシュミレーションだったりして」
「えっ?そっち?……ないない。ただ大樹の新生活を単純に応援したいだけよ」
「ほんとに?」
「ほんとよ」
 大樹はサチ姉にずっと一緒にいてほしかった。大樹ははっきりと自分の気持ちに気づいていた。

 俺はサチ姉のことが好きだーーとーー

 それからほどなくして、大学生活はスタートした。大樹は着実に夢に向かって歩みを進めている。両親を安心させようと週末には電話をしているとのこと。もちろんサチのところへは、ほぼ毎日ラインで一日の報告がある。日課のようだ。

 サチは両親の手助けもあり、仕事は順調、こちらも着実に弁護士としての力をつけていた。来年には父の弁護士事務所に移る予定だ。
 父の事務所は、大手クライアントをいくつか持っていて、今度新しいクライアント、株式会社ユフシスが加わることになった。
 その食事会に初顔合わせでサチを同席させたのだ。食事会は都内の料亭で、ごくごく少人数で行われた。
 社長の西井ユウキと妻のユカ、そして加山弁護士事務所代表の加山と娘のサチの四人だ。
 サチはこの時、佐々木先生の娘、由紀ちゃんの両親だとは全く知るよしもなかった。
 西井社長は自己紹介するときに、私たち夫婦には、子供がおりませんで二人で頑張って会社を大きくしてきました、と挨拶していた。奥様のユカさんは、社長の一歩後ろを歩いているような控えめな静かな女性という印象だった。
 二時間の食事会は、滞りなく終わり、来期からの顧問契約を交わした。サチは敢えて外部の厳しい環境で仕事の経験を積んだことが自信に繋がっていると感じた。父の元で、弁護士としての新しいスタートがきれることにワクワクしていた。
(これまでいろいろ頑張ってきて良かった)
父も、サチのことを褒められて満足気であった。
 これからもっと親孝行していこうと素直にそう思っていた。
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