第13話

文字数 978文字

 月曜日の朝、大樹くんを迎えに行くと、家の前で村長の奥様と大樹くんが待っていた。
「サチさん、大樹をよろしくお願いします。自転車通学なんて初めてだから、大樹は喜んでおりますが正直、とても心配です」
「ゆっくり走っていきますから。万が一、転んだりしたらすみません。でも大樹くんももう立派なお兄ちゃんだし、男の子だし、ね。大丈夫よね」
「うん、大丈夫。サチ姉と一緒だから心配しないで」
「ほらね、サチさん、昨日からこんな調子なのよ」
「荷物は私が持っていきます。大樹くんは身軽で」
「そう……じゃあ、お願いします」
 サチは荷物を受け取り自転車の前カゴに入れた。
「行ってらっしゃい」
「行ってきまーす。出発進行」
大樹くんは先頭で走り出した。
「行ってきます」
サチは急いで後を追った。

 学校までの道のりは、二人並んでゆっくり走った。
「ねぇ、大樹くん」
「なに?」
「大樹くんのお父さんの病気、ちょっと心配だね」
「うん……でもお母さんが言ってた。二週間したら治って家に戻ってくるって。だから、それまでいい子でいるって約束しているんだぁ」
「そうなの。お父さんとお母さんは優しい?」
「うん、優しいよ。あんまり怒られたことない。でも川に一人で遊びに行っちゃダメとか山は危ないとか、ダメなことばっかりだから……ほんとは、もっとたくさん遊びたいんだ……でも、お母さんが悲しそうな顔をするから我慢してる」
「ふーん、そうなの……じゃあ今度、サチ姉ちゃんが、どっちか連れていってあげるよ。川と山、どっちがいい?」「川。川で遊んでみたい。この辺りの川はきれいだから魚もたくさんいるってお父さんが言ってた」
「よし、じゃあ今度、川遊びにサチ姉ちゃんと行こう。お友達も一緒でもいいよね。人数は多い方が楽しいし」
「うん。じゃあ僕の友達も一緒にいい?」
「うん、もちろん。ただし、大樹くんのお父さんか退院してきてからだよ」
「うん、約束」
 そんな会話をしているうちに無事に学校に着いた。
 心配そうに門で出迎えてくれたのは、担任の大原先生だった。
「大樹くん、おはよう。自転車でよくこれたね。よかった、よかった」
「うん。サチ姉と一緒だもん、心配ないよ」
「そうだったわね。明日からも気をつけてね」
「はい、先生」
 そう言って大樹くんはクラスメートを見つけて走っていった。
 サチと大原先生は大樹くんの後ろ姿を微笑ましく見送った。
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