第16話
文字数 736文字
いよいよ、サチが東京の自宅に帰る日がやってきた。サチは昨日までに、長年生活してきた荷物も段ボールに積めて東京に送っていた。だから、両親が迎えにきた日は八年前に来たときに持ってきたピンクのチューリップのついたポシェット一つだけだった。
昨日サチは一人で神社の神様に会いに行ってきた。サチはここでの生活をずっと神様が見守ってくれていたように感じていた。一人でいるときも、友達といるときも、ふと、誰かに見られているような、そんな瞬間がときにあったのだ。
石段を上り、途中のお地蔵さまに一礼し、祠に手を合わせ(ありがとうございました。アタルをよろしくお願いします)と将来の無事を祈った。アタルを知っているのは、捨てた母親と私だけだ。私はずっとアタルを見守っていかなければーー
サチは心に強く誓った。
サチのお別れの日、村長さん夫妻と、大樹くん、そして同級生の四人が見送りに来てくれていた。
「サチ、元気でね」
「うん、みんなもね。いつか東京で会おうよ」
「うん、俺たちも夢に向かって頑張るからよ、サチも頑張れ。会いたくなったらいつでも来い。抱きしめてやる」
「おい、ケンジの言うセリフじゃないよなぁ」
みんな笑顔で見送ってくれた。サチに涙は似合わない。
「大樹くん、またね。優しくて強い男になるんだよ」
「うん、約束したもんね」
「じゃあね」
何度も何度も振り返り、手を振り、みんなが小さくなるまで思いっきり手を振り続けた。
みんなが見えなくなるとサチはポケットから白いハンカチを取り出した。
(アタル、ちょっとの間お別れだよ。きっとまた会いにくるからね)
サチはハンカチにそっとキスをしてポケットにしまった。
サチは車の窓を開け、懐かしい稲の香りを胸いっぱいに吸い込んだ。
(さよなら、みんな)
昨日サチは一人で神社の神様に会いに行ってきた。サチはここでの生活をずっと神様が見守ってくれていたように感じていた。一人でいるときも、友達といるときも、ふと、誰かに見られているような、そんな瞬間がときにあったのだ。
石段を上り、途中のお地蔵さまに一礼し、祠に手を合わせ(ありがとうございました。アタルをよろしくお願いします)と将来の無事を祈った。アタルを知っているのは、捨てた母親と私だけだ。私はずっとアタルを見守っていかなければーー
サチは心に強く誓った。
サチのお別れの日、村長さん夫妻と、大樹くん、そして同級生の四人が見送りに来てくれていた。
「サチ、元気でね」
「うん、みんなもね。いつか東京で会おうよ」
「うん、俺たちも夢に向かって頑張るからよ、サチも頑張れ。会いたくなったらいつでも来い。抱きしめてやる」
「おい、ケンジの言うセリフじゃないよなぁ」
みんな笑顔で見送ってくれた。サチに涙は似合わない。
「大樹くん、またね。優しくて強い男になるんだよ」
「うん、約束したもんね」
「じゃあね」
何度も何度も振り返り、手を振り、みんなが小さくなるまで思いっきり手を振り続けた。
みんなが見えなくなるとサチはポケットから白いハンカチを取り出した。
(アタル、ちょっとの間お別れだよ。きっとまた会いにくるからね)
サチはハンカチにそっとキスをしてポケットにしまった。
サチは車の窓を開け、懐かしい稲の香りを胸いっぱいに吸い込んだ。
(さよなら、みんな)