第14話

文字数 1,187文字

 それから石井村長が退院するまで、毎日、大樹くんと自転車で通学した。帰り道もちゃんと寄り道をすることなく自宅まで送り届けた。奥様は毎日、家の外で帰りを待っていてくれた。
「サチさん、本当にありがとう。来週からは主人が車で送り迎えできそうなので」
「そうですか。無事に退院できて良かったです。たまたま晴れの日が続きましたけど、天気の悪い日もありますから車で送迎できるなら安全だし……良かったね、大樹くん」
「うん……お父さんが帰ってくるのは嬉しいけど……僕も自転車通学したいな……」
「そうだね。自転車、上手だもんね。でもね、校則では、小学四年生以上じゃないと自転車通学は禁止されているの。いろんな事情があって、両親が送り迎えができなくて、両親が認めているおうちだけなのよ。だから、大樹くんが高学年になって、どうしても自転車通学したいなら、お父さんとお母さんにちゃんと了解をもらってからにしてね。今はお父さんとお母さんの言うことをちゃんと聞いて。そうしないと、いい子になれないよ」
「いい子ってなに?」
「そうね、優しくて強い男の子かな」
「そうかぁ。じゃあ、サチ姉が言うならそうする」
奥様は二人の会話を笑顔で聞いていた。
「大樹は、ずいぶんサチさんのことを信頼しているみたいね」
「偉そうなことを言ってすみません」
サチはちょっぴり恥ずかしくなりうつむいた。
「いいえ、変な意味じゃないのよ。本当の姉弟みたいだなと思ってね。大樹にもサチさんみたいなお姉さんがいたら良かったな……ってね」
 大樹はサチ姉が本当のお姉ちゃんだったらいいのにと本当に思っていたので、お母さんに言われたことが急に恥ずかしくなった。
「僕はカッコいいお兄ちゃんがほしいんだ」
と言って家に入ってしまった。奥様は
「あらまぁ、それは無理だわ」と言い二人で目を合わせて笑ってしまった。 

 サチはお礼にとお菓子をもらい、帰ってばあちゃんに渡した。
「奥様からお礼のお電話いただいたのよ。こんな菓子折りまで頂いて……でも村長さんが無事に帰ってきて大樹くんも怪我なく通学できて本当に良かった。サチもお疲れ様だったねぇ」
「ううん、全然、大変じゃなかったよ。逆に私の方が退屈な通学時間が楽しくなって……大樹くんといろんな話ができて楽しかったよ。村長の秘密とか奥様の昔話とかーー」
「なんだい、それ。気になるじゃないか……」
「嘘だよ、嘘。大樹くんがそんなこと言うわけないじゃん。でもね、とても愛されて育てられていることがわかっただけで、私にとって二週間の送迎はとっても意味のある時間だったよ」
「そうかい。じゃあ良かった。サチも高校は東京だろう。あと二年……サチのこっちの生活も悔いのないように過ごさないとねぇ……」
ばあちゃんはそう言うと、頂いたお菓子をご先祖さまにお供えし手を合わせた。
 サチは部屋の窓から星空を見上げた。
 今日も綺麗な星空が見えた。
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