第25話 アクシデント

文字数 862文字

酷暑の夏。
猫も熱中症になるという話を聞いた。
助からないこともある、と。
人間と同じだ。

猫は人間よりずっと小さい。
だから水分量も少ない。
体内から失われた水分量が少なくても、もともとの量が少ないのだから危険度は高いかもしれない。

猫たちが暮らす離れ屋は昔ながらの日本家屋。
隙間が多く、床下に潜れば涼しい。
窓を開け放して、扇風機だけで乗り切ろうと思っていたのだけれど。
廊下で遊んでいる子猫たちを見ていて、急に不安になってきた。




猫たちよ。
いきなりパタンと寝るのは、勘弁してほしい。
日当たりの良いところで昼寝するのも、やめてほしい。




妹の知人の飼い猫も熱中症になった。
点滴をしてもらって、一命を取り留めたらしい。

「クーラーをつけてやって」

と、妹からメールが届いた。

クーラーがあるのは、一室だけ。
仏間への立ち入りが全面的に解禁となった。



それから二週間と少し。
私が倒れた。

* * *

熱中症になったのは、砂利道の上。
農道整備に参加しているときだった。



いっしょに作業をしていた方々が、ぐったりと横たわる私を心配そうに覗き込んでいる。
この集落では、熱中症で救急車を呼ぶことはまずない。
農業に関わる人たちは、引き時を知っている。
なにより基礎体力が違う。

恥ずかしい。
恥ずかしさをごまかそうと、痺れた唇を動かしてしゃべり続けた。
周囲に集まった人たちが氷で全身を冷やし、団扇であおいでくださっている。

「猫ちゃんが心配しとるよ」

誰かの声が降ってきた。
ダイちゃんが離れ屋の玄関前からこちらを見ているらしい。
人がたくさんいるので、近づくことができないのだろう。



みなさま、申し訳ありません。
自分の体力のなさを甘く見ていました。

倒れてすぐに適切な処置をしてもらったおかげで、症状は軽かった。
病院のベッドの上から、家族にメールで連絡した。

 「点滴 なう」


遠方から駆けつけてきた妹に泣かれた。
ごめん。心配をおかけしました。

私に何かあったら、猫たちの生活が立ちゆかなくなる。
ダイちゃんごめん。
これから十分気をつける。
暑さが収まるまで、いっしょに涼しいところでゴロゴロしよう。

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