第15話 勇気をください

文字数 892文字

子猫たちがスリッパラックに登っている。
いつでも里子に出せるお年ごろだ。



捕獲ネットを返却するため、動物病院に行った。
獣医さんは、私が何も言わないうちに倉庫から捕獲器を出してきてくださった。

想像以上にゴツい。


そして漂う昭和の香り。


『ノラ猫』ではなく『野猫』。
前に『南京袋』という単語を見たのはいつだったか。
念のために申し添えておくと、こちらの病院には最新の医療機器が揃っている。
猫も犬もハムスターも、高度な医療が受けられる。

これは猫にケガをさせず、よく捕獲できる器具なのだそうだ。
使い方まで実演してもらい、2台を無料でお借りした。
ご近所の方々も「いつでも手伝う」と言ってくださる。
私はたぶん、とても恵まれているのだと思う。

* * *

保健所に窮状を訴えてから、二日後。
期待はしていなかったが、担当の方が出張帰りに来て下さった。
しかも、担当獣医さんもご一緒に。

子猫たちはわらわらと逃げ惑い、隠れ場所に潜り込んだ。
母猫たちは、知らない人間を見ても床に寝そべったまま動かない。
自宅のようにくつろいでいる。



どこの都道府県でも犬や猫の『殺処分ゼロ』に取り組んでいる。
『TNR活動』を行なっている。
立ちはだかる壁は、人々の意識の低さだけではない。

深刻な予算不足と人員不足。

この当時、『殺処分ゼロ大作戦』を行なうに当たり、710k㎡を超える区域の所轄担当員がたった3名。今はもっと増えているかもしれないけれど、ほぼボランティアさん頼みだ。

保護ボランティアさんたちは、自分の生活を犠牲にして活動している。
費用の負担もバカにならない。
公的機関も準公的機関も、いっぱいいっぱい。個人的な案件までは、手が届かない。

やるしかない。
ご近所さんの力を借りて、あのゴツい捕獲器でチビたんとブチさんを捕まえる。
分かっているのだけれど、やはり怖い。

ものすごい音がするのだろうな。
猫に怖い思いをさせるのが、怖い。

一度失敗すると、二度目の成功率はぐんと下がる。
捕まえられなかったら、どうなるんだろう。

うじうじと考え込む私に、嬉しい知らせが届いた。
「白い猫、引き取りたいっていう人がいるけど」
しかも同時に二匹!



よし、がんばろう。
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