第30話 さあ、行こうか

文字数 1,019文字

いつの間にかキンモクセイが満開になっていた。



萩の花はとっくに散ってしまった。
私はまだ半袖で過ごしているけれど、霜が降りた地域もあるようだ。
秋はどこに行ったのだろう。

しなければならないことはいろいろあるけれど、やる気が出ない。
畳の上でごろごろしていたら、ダイちゃんにみぞおちを踏まれた。



――お外に行こう。

ダイちゃんが言う。
あまり気は進まない。
ひどい状態になっているのが分かっているからだ。

――いっしょに畑に行こう。

ダイちゃんがねだる。
仕方ないなあ。

久しぶりにふたりきりで畑の様子を見に行った。
畑はピンク色のじゅうたんに覆われていた。見事なイヌタデ畑だ。



「どうしようねえ、ダイちゃん」
どうしようもこうしようも、手のつけようがない。

草をかき分けると、ナスとピーマンが実っていた。
しぶとく生き延びてくれた作物を収穫して、今年はおしまいにしよう。
よくがんばってくれたね。ありがとう。




冬の間に草は枯れる。
少しずつ片づけて、春になったらまた作物を植えよう。




季節の移り変わりは、思うより早い。
春生まれのノラ猫はとっくに親から離れて独り立ちしている。
残った三匹の子猫たちは甘ったれでパパにべったり。
地域猫になったはずの母猫たちは、毎日ごはんを食べにやってくる。
住む人間のいない離れ屋の内と外、合わせて六匹の猫ファミリーが暮らしている。




ものは考えようだ。
猫たちのせいで、何かと気苦労も多かったけれど、
猫たちのおかげで、実家は空き家にならずにすんだ。

春になったら、母屋に人間の家族が引っ越してくる。
それまでここを守ってください。




さあ、冬に備えよう。
外で暮らす親猫たちのために、風の当たらない暖かなシェルターを作ろう
子猫たちと自分のために、コタツを出そう。




春になったら――。

田舎の猫は自由だ。
キジ、サバ、クロ。
三匹の子猫は、毎朝パパと一緒にパトロールに出かけるのが日課になった。
その間に私は猫トイレと家の中を掃除する。
戻ってきたら、みんなで一緒に朝ごはんだ。



子猫たちが一歳になったら、猫玄関を開放しよう。
今はまだ手を離す勇気がないけれど、もし望むなら外暮らしの猫になっても構わない。
ここを出て、新しい家族を探しに行ってもいい。
もしかしたら、ダイちゃんが私と出会ったように、人間の相棒が見つかるかもしれないね。




* * *



西から冷たい風が吹いてくる。
私は毎日、実家に通う。



――おはよう。

だいだい色の猫が、私を出迎えてくれる。



おはよう、ダイちゃん。
今日は何をしようか。


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