第3話 お正月

文字数 567文字

ダイちゃんの拠点は田舎家の離れ。
少し前まではきちんと管理をする人がいて、その飼い猫が住んでいた。

急な用事ができたのか、その人は予定より早く違う世界に旅立っていった。
猫はしばらく留まって、十ヶ月が経った頃、その人を追って同じところへ行ってしまった。



離れにある猫玄関は、その猫が使っていたものだ。
先住猫の名前は、きゅるさん。
きゅるさんがいるときから、ダイちゃんはその玄関を通って家の中に入っていた。
そうして、ごはんを分けてもらっていた。



きゅるさんが旅立ったのは、12月。
誰も住むものがいなくなった田舎の一軒家。私の実家。

年明けて元日。
初詣の代わりに実家に出かけた。
お隣さんがお孫さんと一緒に凧揚(たこあ)げをしている。
風は弱いけれど、走れば揚がる。(にぎ)やかな笑い声が聞こえてくる。

 ――ああ、お正月。

そういえば、1月1日の午前中は毎年お天気がいいような。
たぶん気のせいじゃないと思う。

11時過ぎ。ダイちゃんが現われた。
お年始に来るとは、なかなか感心なノラ猫だ。
せっかくだから、お屠蘇(とそ)代わりにとろりとしたスープを…

「シャーーッ!」


やろうとしたら威嚇(いかく)された。
催促(さいそく)の仕方が間違っている。
それともこれは、ダイちゃんなりの喜びの表現なのだろうか。

どちらにせよ、間違いを正してやる方法が分からない。
せめて村の人々に嫌われないノラ猫になっていただきたいのだけれど。
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