第4話 にゃあ

文字数 676文字

ダイちゃんはどこからともなくやって来る。



猫玄関をくぐって離れに入り、廊下で人間が用意したごはんを食べる。
そうして、食べ終わるとふらりと出てゆく。



人間からごはんをもらうようになっても、ダイちゃんは「にゃあ」が言えなかった。
『のどゴロゴロ』もできなかった。

「にゃあ」という声は、もともと母猫と子猫が呼び合うときに使うコトバらしい。
だが、生まれたばかりの子猫は耳があまり聞こえない。
『ゴロゴロ』という振動音で、母と子がお互いの存在を伝え合うのだとか。

ダイちゃんも昔は使っていたはずだけれど、とっくに忘れてしまったのだろう。
ノラ生まれ、ノラ育ち。
猫社会の中では「にゃあ」というコトバは必要ないからだ。

ごはんをくれる人間に「しゃあっ」と威嚇の息を吐き、機嫌のよいときは『グーグー』というイビキのような音を立てた。

今は「にゃあ」も言えるし、のどを鳴らすこともできる。
ダイちゃんはとてもおしゃべりで、少し甘えんぼうだ。



* * *

家庭菜園と呼ぶには少し広い畑がある。
そこで一人、作物を育ててみた。


 エンドウ、かぼちゃ、じゃがいも、トマト、なす。
   他にもいろいろ。

初めての経験だ。成果は期待しない。

たまにうまくいくこともある。
そんなときは、植物の強さに感謝する。



外で作業をしていると、ダイちゃんの気配を感じる。
黙って見ていることもあるし、
「ほわぁん」と鳴いて「ここにいるよ」と主張することもある。
私が気づいて手を振ると、満足してどこかに行くことも。



構ってほしいときには、どんどんそばに寄ってくる。
遠慮はしない。
そうすると、ついつい相手をしてしまうので
仕事が進まない。

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