第9話 玄関で「にゃあ」と言ったのは

文字数 701文字

6月半ば。小雨模様の涼しい日。

実家に着いて玄関の鍵をガチャガチャしていると、内側から猫の声がした。ダイちゃんの声だ。
この頃は、猫玄関から入って家の中で出迎えてくれることが多い。

ブチさんの声もする。それからもうひとつ、かすかに別の声。
チビたんは無口だ。今まで声を聞いたことがない。
玄関を開くと、ブチさんがすごい剣幕(けんまく)で私を威嚇(いかく)した。そんなにお腹が空いているのだろうか。
でもダイちゃんのごはんが先だ。そのへんの順番はきちんとしなくては。
ウチの子はダイちゃんだけだ。



チビたんの姿がない。
奥の廊下にもいない。
さっき三種類の声を聞いたと思ったが、気のせいだったか。ブチさんの声だったのかな。
今日のブチさんは、ものすごく気が立っている。ごはんをやっても落ち着かない。
ダイちゃんに見守られて、ようやくカリカリを食べ始める。

そこにチビたんが合流。



女のコたちの食いっぷりはすさまじい。
カリカリが飛び散り、どんどんダイちゃんが押されてゆく。
やはり一緒に食べるのは無理だ。別々の場所で食べてもらおう。



ダイちゃんを(いたわ)りながら廊下にすわっていると、

カタン…。

玄関の方から音がした。
ダイちゃんは反応しない。
風が吹いている。
築30年を超える木造家屋だから、家鳴(やな)りも住んでいるだろう。

またブチさんがダイちゃんを呼びに来た。
そして私を威嚇する。まったくもう、今日はどうも様子がおかしい。



キッチンでテーブルに向かって座っていると、玄関の方でまた物音がした。
そして背後に何かの気配。

振り返ると、廊下には白いふわふわの……。

人間用玄関へダッシュ!
そこで私は、朝聞いた声の正体を知った。
ブチさんがやたらイライラしている原因も判明した。



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