第19話 父であり母でもある

文字数 668文字

イクメン猫ダイちゃんは、かいがいしく子猫たちの世話をする。



遊び仲間がいて、パパがいる。
子猫たちは母親と引き離されても、さほど寂しさを感じていないように見えた。




ほんの少し前までダイちゃんは孤高のノラだった。
母猫や兄弟たちと暮らした記憶もないかもしれない。
そこに、ブチさんとチビたんという見本が現われた。

『なるほど。小さいのはあんなふうにおせわするのか』

と思ったかどうかは知らないが、母猫がしていた通りに真似をして、代理を務めている。
ダイちゃんの丁寧な毛づくろいのおかげで、子猫たちは耳の中まできれいだ。



授乳もする。



もちろん、お乳は出ない。
これが母猫なら、お乳が出なくなったタイミングで上手に断乳するのだろう。
チビたんは子猫がお乳に吸い付こうとするのをきっぱりと拒否していた。しかしブチさんの断乳が遅れたせいで、共同保育されていた子猫たちは、まだ乳離れしていない。
最初からお乳が出ない父猫は、いつ、どうやって断乳するのだろう。

子猫は5匹。休憩時間もままならない。
お気に入りの場所で昼寝をしようとしても、子猫たちにたかられる。




狭い椅子の上で、子猫たちが場所の取り合いを始めた。
一匹たりとも落としてはならない。
寝ぼけ眼のまま、ダイちゃんは踏ん張る。



ダイちゃんの顔がだんだん『母親』になってきた。



* * *

家の中でダイちゃんを中心に一家団欒が繰り広げられている間、チビたんは入り込む隙間を探してぐるぐる回っていた。

哀しげな声で、誰かを呼んでいる。
チビたんの鳴き声を、私は初めて聞いた。



子猫たちにその声を聞かれないよう、きっちりとサッシを閉めた。
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