第6話 相棒?

文字数 754文字

二月、三月。
季節は進む。

その頃、実家の母屋は改築中だった。
計画を立て、あれこれ手配したのは父だ。だが、施工主とその飼い猫は、完成を待たずに次の世に行ってしまった。



 ――工事は続く。

私はほぼ毎日、実家に通った。
ダイちゃんもほぼ毎日通ってくる。
新しいお家が出来上がっていくのを、いっしょに見守った。



未完成の母屋に向かって建つ小さな離れ。
今は亡き人間と、その飼い猫が過ごしていたところ。
庭に面したL字型の廊下が、ダイちゃんの居場所だ。

戸が開いていても部屋の中には入らない。
私が朝ごはんを用意するのを、敷居の向こうでじっと待っている。
まだ警戒しているのか。それとも遠慮しているのかな。



「懐いてきたら、そのうち恋人を連れてくるよ」

と、友人が言った。

全身に草の実をくっつけて、鼻の横は涙で黒ずんで。
こんな小汚いオス猫を好きになってくれる、奇特な女のコがいるだろうか。

「子どもが生まれたら、見せに来るかも」

恋人はともかく、せめてご近所の方々に嫌われないよう毎日ブラシをかけて顔を拭いた。
もがくダイちゃんを押さえつけ、
「内面を磨くには、まず外見からよ!」
オードリー・ヘップバーン演じる花売り娘とはほど遠い、ぶちゃいくなノラ猫の手入れをした。
努力の甲斐あって、少しずつダイちゃんは小ぎれいになり、毛づやが良くなっていった。



* * *

「あの猫、最近変わったよ」
と、ご近所の方がおっしゃった。
今までは、目が合うと『ぴゅーっ!!』と明後日の方向に走り去ったのに、
今では目が合うと、
「ぴゅーっと、そこ(猫玄関)から中に入っていくよ」
私がいない間も、離れの軒下や庭で寝ているらしい。
「もう、ここが自分の家だと思っているね」
知らないうちに捕獲され、いなくなってしまう心配はなくなった。



――友人の予言が現実となったのは、その年の夏のことだ。
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