第22話 黒猫の名前 

文字数 925文字

五匹の子猫は育ち盛り。
もりもり食べて、もりもり遊ぶ。




暑さと育児でダイちゃんはお疲れぎみだ。
ときどき、私の陰に隠れてぐったりとしている。



そこに明るい知らせが舞い込んだ。

「きんめを欲しいという方がいるんだけれど」

疲れが吹っ飛んだ。
ありがとう、仲介天使たち。本当にあなた方は頼りになる。

きんめをキャリーに入れて、いつもの獣医さんのところへ。
お引き渡しに先立って、健康診断をしてもらった。

結果:オス。
   猫白血病(FelV)、陰性。
   猫エイズ(FIV) 、陰性。

母猫たちも避妊手術の時に検査を受けている。
ウィルスには感染していなかった。子猫たちも全員無事の可能性が高い。

「この子は幸せねえ」

きんめを撫でながら、女医さんがしみじみおっしゃった。

ノラ生まれだから、どこで病気を拾っていてもおかしくない。
健康なまま、新しい家族のところに行けるのは本当に幸せだ。

費用はけっこうかかるけれど、残った子猫たちにも検査を受けさよう。
里親候補の方には、きちんと結果を伝える。
そのために家族に恵まれなかった子がいても、それはしかたない。
信用は宝だ。誠実にやる。

来たるべき日に備えて、キャリーはずっと置きっぱなし。
『怖いものではない』と思ってもらうため、遊び道具にしてある。



キャリーのふたは、ゆらゆらして楽しい。
キャリーの中には特別なおやつが入っている。




巣立っていった子たちは、抵抗なく入ってくれた。
出発するときも移動する間も、しゃむ色子猫たちはおとなしかった。

しかし今日、きんめを運び出そうとしたらニャーニャー鳴いた。
それを、あおめが物陰からじっと見ていた。

車で移動している間、私はきんめにずっと話しかけていた。

 きんめはいい子だねえ。
 新しいお家には、猫が三匹いるんだって。
 そのうちの誰かはお乳をくれるかもしれないね。
 たぶん無理だろうけどね。
 
 みんなと仲良くするんだよ。
 きんめはいい子だから、だいじょうぶ。
 きっと、だいじょうぶ。

話しかけていたら、少し涙が出た。
きんめは何も言わず、キャリーの中で座っていた。

そうして、

「大切にします」

新しい家族と一緒に、きんめは新しいお家に帰っていった。
新しい名前は『くまちゃん』。

残された黒い子猫の名前は『クロ』になった。

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