第26話 猫とご先祖

文字数 908文字

畳敷きの仏間にクーラーを効かせ、初めて障子を開いた日。
子猫たちは何の抵抗もなく新しい場所に飛び込んだ。



仏間には高さの違う棚がいくつもあって、隙間がたくさんある。
猫は狭い場所と高い場所が大好きだ。



久しぶりに仏壇の扉を開く。仏具は置かれたままになっている。
鳥の羽のついた毛はたきにじゃれついたので、あわてて取り上げた。

つるつるの経机は、ひんやりとして気持ちいい。
子猫たちは全員がおりんを鳴らし、仏壇の入り心地を確かめた。





もうすぐお盆がやってくる。これだけ賑やかにしていれば、ご先祖も退屈しないだろう。
仏壇の中におわすご本尊に粗相があるかもしれないが、小さな生き物のすることだ。
きっと御仏は許してくださる、はず。

扉を閉めるときだけは気をつけなくては。クロを閉じ込めてしまいそうだ。



* * *

走る。飛ぶ。潜り込む。
子猫たちは大はしゃぎ。
畳が猫の爪でケバケバになりそうだが、全く気にならない。
そもそも、この離れ屋が建ってから一度も畳を替えた記憶がない。



とりあえず、汚れたり壊れたりしたら困るものを片付けておこう。
お坊さん用のふかふかお座布団。金襴の経机敷き。
あと、蝋燭立てのような先の尖ったものや、危険そうなものも。
経机についた足跡は、あとで拭けばいい。

結局、放置していた仏間の掃除をするはめになってしまった。
もしかしたら、こやつらはどこかから派遣されてきたのではなかろうか。
目的は、私が片づけやお掃除をせざるを得ない状況に追い込むこと。

おのれ、ご先祖の差し金か。



* * *

ダイちゃんが部屋に入ってこない。
試しに抱えて部屋に入れてみたら、一度ごろんと転がってからスタスタと出ていってしまった。



新たに出現した空間に警戒しているのか。
それとも先代猫きゅるさんの匂いが残っているのか。
はたまた、人間には感知できないナニかを感じ取っているのか。
敷居の上に伏せて、子猫たちが駆け回る様子をじっと見つめている。



その日、ダイちゃんは仏間に入らなかった。
子猫たちもひとしきり遊んで満足すると、クーラーのない場所でごろ寝していた。



猫は快適な場所を知っている。
押し入れの襖以外は開けっぱなしにしておこう。
どうぞ、お好きなところで過ごしてください。


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