第20話 TNR

文字数 883文字

捕獲器に捕まり、見知らぬ場所で手術を受けたブチさん。
栄えある『地域猫 第1号』となった。



そういう怖い目に遭った猫はしばらく現場に近づかないと聞いていたが、ブチさんは全く気にしない。
手術の翌日に戻ってきた。そして、また捕獲器に捕まった。
何度も捕まる猫もいるらしい。ブチさんはそのタイプだった。
捕獲器に入り、しっかり仕掛けエサを食べてから、区長さんに出してもらう。
図太い。

もう一匹の母猫、チビたんは警戒心が強い。用心深い。
なかなか捕まってくれない。

庭でブチさんが鳴いている。ご飯の催促だ。
彼女の声はとても響く。放っておくとご近所迷惑になりそうだ。
根負けして、カリカリをやった。
家の中に入って外を見ると、チビたんがブチさんを押しのけてカリカリを貪っていた。



子猫たちの目の前で、母猫たちはごはんを奪い合っている。
お腹がすいているんだな。
避妊手術さえ受けてくれたら、きちんと食べさせてあげられるのに。

もう、捕獲器にはかからないか。
半ば諦めの境地で、仕掛けエサを取り替えた。
その数分後。



二匹が仲良く捕獲器に入っていた。

12時過ぎ。獣医さんの午前の診療は終わっている。
ダメもとで電話してみたら、快く受け付けてくださった。
二匹の入った捕獲器を、昼食中だったお隣の方に助けていただき車に積み込み病院へ。
捕獲器の中を覗いた女医さんがブチさんを見て、「あらー、また来たのー」と優しく笑った。

チビたんは明日の朝まで入院。ブチさんを連れて帰路についた。
戻って、子猫の相手をしよう。





* * *

1時間後、獣医さんからお電話があった。
「4時くらいに迎えに来て下さい」
聞けば、チビたんのお腹にはうんちょがギッシリ。
何を食べていたのかは知らないが、どこかでしっかり食べていたらしい。
で、もう元気だという。たくましい。

『入院』→『手術』→『退院』の過程を約3時間で終了してしまった。

玄関先でキャリーを開ける。
身じろぎもせず唸り声も上げず、静かにうずくまっていたチビたんは、扉が開いた途端、矢のように彼方へと走り去った。

これ以上子猫が増えることはない。
ご近所を巻き込んでのTNR活動が、ようやく終了した。

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