崇高な ~金色の空 終わり~

文字数 1,428文字

 翌日、手と手を取り合ってカニューとセンティはタンダル村を去っていった。
 それを見送った村の衆は、笑顔のものもいるし、涙を流しているものもいた。
 しかし、一様にみな、二人を祝福していた。

 マレルとサーテルコールもその後数日間その村にいて、外の話をしたり、詩を歌ったりしたが、二人も次の場所へ移る事にした。

 見送ってくれたデクタル村長もすこし寂しげな雰囲気だ。
 また来てくれ、と村人からそう念を押され、マレルとサーテルコールは「必ずまた来る」と約束して村を出た。
 マレルとサーテルコールはこの村で買った織の反物を一つずつ持って、山を下りて行く。
 

「今度はどこに行きますか?」
 
 そう聞いたサーテルコールに、マレルはニマリと笑った。

「また王都へ戻る。そしてこの織の反物を売る」
「あ、そうですよね。これ王都で高く売れるんですよね」
「そうだ。ここで買った三十倍の値段がつく」
「さ、三十倍!」

 王都とタンダル村は近くもないが、それほど遠くもない。
 タンダルの織物の値打ちを知っているからこそ、マレルは村人に詳しい事をいうのを控えていた。

「タンダル村は文字通り宝の山だな。サーテ、これを売ったら何かうまいもんでも食べよう」
「いいですね! 王都で何が食べられるか楽しみです!」
「王都は何でもあるぞ」
  
 マレルは愉快そうに声をあげて笑った。
 少し歩くと、あの雲海の広場に出た。
 センティの思い出の場所で、サーテルコールのお気に入りの場所。

「師匠」
「なんだ」
「そういえばセンティさんから伝言があるんです」
「ほう……。なんて言っていた?」
「『祝福の詩』にとっても感動しましたって。それとこの村の独身最後の宴で、笑顔でいられたのは、詩で皆を笑顔にしてくれたからだし、あの詩をうたってくれたから、だから感謝していますって」
「そうか」

 サーテルコールはマレルの後ろを歩いていたので、マレルの顔は見えなかった。
 今、師匠はどんな顔をしているだろう、と思う。
 嬉しがっているだろうか? いつもの無表情だろうか?
 すこし顔が見たくて、速足であるいて気付かれないように仰ぎ見た。
 
 マレルの顔は朝の光をうけて、とても崇高で満足気な表情をしていた。

 詩を歌うと言う事は、歌い手にとっても幸せを運ぶものなのだな、とサーテルコールは思った。

 ふと、サーテルコールはセンティが言った事を思い出す。

『貴女も一目見て、この人だって思ったの?』 
『なんのこと?』
『マレルさんのこと』

 サーテルコールはその時、苦笑した。

『師匠の詩にね。何にも詩の事が分からない私でも一流だって思ったわ。だから弟子にしてもらったの』
『それだけ?』
『そうよ』

 そう言ったサーテルコールにセンティは謎の微笑を浮かべた。
 サーテルコールは念を押す。

『本当よ』 
『そう』

 それ以上センティは詮索しなかったが、その時、サーテルコールはなんだかとても居心地が悪くなった。



 詩を歌う。
 それは歌い手の魂をも揺るがす。
 誰もが歌で幸せを感じられれば。
 そう思う。
 センティを笑顔で送り出せたようなうた。
 あの『祝福の詩』のようなうた。
 そんな歌を紡いでいきたい。
 口に出さずとも、マレルもサーテルコールもそう考えていた。 

 詩は人の世界を変えるのだから。

~金色の空 おわり~

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