草原の民の集落へ
文字数 2,312文字
翌日の朝起きたマレルは、なんだか体がすっきりとしている感覚で目が覚めた。
酒で血のめぐりが良くなったことと、熟睡できた事が大きかったらしい。
もともとアルコール度数の低い酒だったので、二日酔いにはならず、頭も痛くない。
そもそもそんな量も飲んでいなかった。
早々とベッドから起き出し、昨日の織物屋へ行く準備をしていると、サーテルコールも起き出す。
「おはよう、サーテ」
「おはようございます、師匠」
そうしていると、宿の者がマレルとサーテルコールの着替えを持ってきた。昨日、汚れていた分の着替えを洗っておいてもらったのだ。
サーテルコールは後を向いてさっと着替えた。
今日は清潔な服が着られる。その事が素直に嬉しかった。
「昨日はすまなかったな、サーテ。今日はまた織物屋に行く。タンダル織を宝石にしてもらうからな」
「はい……」
ふわあ、とサーテルコールはあくびをする。
「なんか師匠、いつもよりも元気がいいですね」
「そうか? まあ、頭がすっきりしているな」
「酒は薬にもなるっていいますもんね」
「そうなのか? まあ、草原の民のところでも飲みすぎないようにはするが」
一口でやめておけば良かった、と思うマレルだった。
「後にあおるようにして飲んだのが、いけなかったんだ。一口ならなんとかなるだろう」
女性でもほろ酔い程度、の酒で腰を抜かすほど酒に弱いのだから飲まないのが一番なのだが。
とサーテルコールは思う。
ちなみにサーテルコールは酒には強い。昔の商売柄で多少慣れている。しかし、マレルの前で誓ってしまった。「酒は飲まない」と。
それを汲んでくれ、酒に弱いのに飲んだこともないものを飲んでくれる師匠は、普段ぶっきらぼうだが、わりと優しいとサーテルコールは感じた。
その後、二人は朝の日課になっている体操をして、朝食を摂り、宿を出た。
織物屋の扉を開く。
やはりレイ二スはカウンターの奥の安楽椅子で寝ていた。朝なのに。
「レイ二スさん。約束どおり来ましたよ」
マレルはレイ二スの近くへ行ってカウンターにもたれて声をかけた。
老人はまたうっすら目をあけて、マレルを見る。
「おお、マレルか。嫁さんも。あの反物はいいものだなあ」
「はい、それで宝石を貰いに来たんです」
「ああ、ちょっとまってろ」
そう言って安楽椅子から立ち上がると、店の奥へと引っ込んだ。
しばらくすると、黒い小さな袋を三つ持ってきた。
「中にルビーが一つずつ入っている。一個を換金すれば一か月分くらい食ってける」
マレルはそれを確認するべく、袋から出し、光にあててみてみた。
「綺麗だな。たしかにルビーだ」
そう言ってふところにしまった。
「それとレイ二スさん、俺たちは草原の民のところへ行こうと思ってます」
「おお! 行ってくれるか!」
「はい、少し興味が出てきたので」
「なら、馬を借りて行けばいい。商店街地区の奥に馬を貸す店がある。馬は乗れるか?」
「ええ、まあ」
「なら問題ないな。草原の馬車道に馬車は通っているが、途中まで乗せてもらっても帰りの馬車がないからな。羊毛の絨毯をよろしくなー。嫁さんを可愛がれよー」
そう言ってレイニスはマレルたちを笑顔で送り出した。
「わざとなのか? あれは……」
「悪気がないところがやっかいですね……」
マレルとサーテルコールはまた脱力した。
それからマレルは香辛料の店に入って胡椒を一袋買った。
「それも草原の民に売るんですか?」
「ああ、挨拶代わりに安くする。胡椒はどこでも貴重品だ」
一頭の馬を借りた二人は、荷物をくくりつけ、二人乗りをしてガルトーニュ平原を目指した。
その日は晴天で、秋の涼しい風が吹きわたっていた。
そう、今はもう秋だった。マレルと初めて会ったのは初夏のころ。それから約半年がたっていた。
マレルが手綱を引き、サーテルコールはマレルの前に乗せてもらった。
師匠とこんなに密着しているのは初めてで、慣れるまでサーテルコールは緊張した。
馬屋は王都の南にあったので、南門から出て、西の平地を通り、王都の北へでる。
そうすれば王都を囲う丘をのぼらなくて済む。
ちなみに西へすこし行くと大きな湖がある。
青い空を見上げながら、マレルとサーテルコールは先日みた草原の民たちの元へと行く。
馬車道を通りながら、この前見た集落を探す。
「あ、見えてきました」
「ああ」
だんだんと近づいてくる集落。
そこで働く人々がマレルたちをみとめる。
マレルとサーテルコールは馬を下りると、集落のはずれで馬の世話をしていた村人に声をかけた。
「こんにちは。私は歌うたいのマレルと申します。こちらは弟子のサーテルコール。是非、われらの歌を聞いていただきたく、やってきました」
「歌うたい? ああ、それなら氏族長のところへ行きなよ。歌かあ、歌は聞いてみたいなあ」
「その氏族長にはどこに行けば会えますか?」
「あの奥の大きなテントだよ」
村人はそう言って指をさして教えてくれた。
「ありがとうございます! 氏族長と話して、きっとここで竪琴や歌を御披露できるよう、頼んで来たいと思います。馬はどこにつなげばよろしいでしょうか」
「馬か……、もし滞在を許されたなら、氏族長のところで預かってもらえるよ」
「そうですか、色々と有難うございました」
そう話して馬を引きながらマレルとサーテルコールは歩いて、その氏族長のテントへと向かった。
酒で血のめぐりが良くなったことと、熟睡できた事が大きかったらしい。
もともとアルコール度数の低い酒だったので、二日酔いにはならず、頭も痛くない。
そもそもそんな量も飲んでいなかった。
早々とベッドから起き出し、昨日の織物屋へ行く準備をしていると、サーテルコールも起き出す。
「おはよう、サーテ」
「おはようございます、師匠」
そうしていると、宿の者がマレルとサーテルコールの着替えを持ってきた。昨日、汚れていた分の着替えを洗っておいてもらったのだ。
サーテルコールは後を向いてさっと着替えた。
今日は清潔な服が着られる。その事が素直に嬉しかった。
「昨日はすまなかったな、サーテ。今日はまた織物屋に行く。タンダル織を宝石にしてもらうからな」
「はい……」
ふわあ、とサーテルコールはあくびをする。
「なんか師匠、いつもよりも元気がいいですね」
「そうか? まあ、頭がすっきりしているな」
「酒は薬にもなるっていいますもんね」
「そうなのか? まあ、草原の民のところでも飲みすぎないようにはするが」
一口でやめておけば良かった、と思うマレルだった。
「後にあおるようにして飲んだのが、いけなかったんだ。一口ならなんとかなるだろう」
女性でもほろ酔い程度、の酒で腰を抜かすほど酒に弱いのだから飲まないのが一番なのだが。
とサーテルコールは思う。
ちなみにサーテルコールは酒には強い。昔の商売柄で多少慣れている。しかし、マレルの前で誓ってしまった。「酒は飲まない」と。
それを汲んでくれ、酒に弱いのに飲んだこともないものを飲んでくれる師匠は、普段ぶっきらぼうだが、わりと優しいとサーテルコールは感じた。
その後、二人は朝の日課になっている体操をして、朝食を摂り、宿を出た。
織物屋の扉を開く。
やはりレイ二スはカウンターの奥の安楽椅子で寝ていた。朝なのに。
「レイ二スさん。約束どおり来ましたよ」
マレルはレイ二スの近くへ行ってカウンターにもたれて声をかけた。
老人はまたうっすら目をあけて、マレルを見る。
「おお、マレルか。嫁さんも。あの反物はいいものだなあ」
「はい、それで宝石を貰いに来たんです」
「ああ、ちょっとまってろ」
そう言って安楽椅子から立ち上がると、店の奥へと引っ込んだ。
しばらくすると、黒い小さな袋を三つ持ってきた。
「中にルビーが一つずつ入っている。一個を換金すれば一か月分くらい食ってける」
マレルはそれを確認するべく、袋から出し、光にあててみてみた。
「綺麗だな。たしかにルビーだ」
そう言ってふところにしまった。
「それとレイ二スさん、俺たちは草原の民のところへ行こうと思ってます」
「おお! 行ってくれるか!」
「はい、少し興味が出てきたので」
「なら、馬を借りて行けばいい。商店街地区の奥に馬を貸す店がある。馬は乗れるか?」
「ええ、まあ」
「なら問題ないな。草原の馬車道に馬車は通っているが、途中まで乗せてもらっても帰りの馬車がないからな。羊毛の絨毯をよろしくなー。嫁さんを可愛がれよー」
そう言ってレイニスはマレルたちを笑顔で送り出した。
「わざとなのか? あれは……」
「悪気がないところがやっかいですね……」
マレルとサーテルコールはまた脱力した。
それからマレルは香辛料の店に入って胡椒を一袋買った。
「それも草原の民に売るんですか?」
「ああ、挨拶代わりに安くする。胡椒はどこでも貴重品だ」
一頭の馬を借りた二人は、荷物をくくりつけ、二人乗りをしてガルトーニュ平原を目指した。
その日は晴天で、秋の涼しい風が吹きわたっていた。
そう、今はもう秋だった。マレルと初めて会ったのは初夏のころ。それから約半年がたっていた。
マレルが手綱を引き、サーテルコールはマレルの前に乗せてもらった。
師匠とこんなに密着しているのは初めてで、慣れるまでサーテルコールは緊張した。
馬屋は王都の南にあったので、南門から出て、西の平地を通り、王都の北へでる。
そうすれば王都を囲う丘をのぼらなくて済む。
ちなみに西へすこし行くと大きな湖がある。
青い空を見上げながら、マレルとサーテルコールは先日みた草原の民たちの元へと行く。
馬車道を通りながら、この前見た集落を探す。
「あ、見えてきました」
「ああ」
だんだんと近づいてくる集落。
そこで働く人々がマレルたちをみとめる。
マレルとサーテルコールは馬を下りると、集落のはずれで馬の世話をしていた村人に声をかけた。
「こんにちは。私は歌うたいのマレルと申します。こちらは弟子のサーテルコール。是非、われらの歌を聞いていただきたく、やってきました」
「歌うたい? ああ、それなら氏族長のところへ行きなよ。歌かあ、歌は聞いてみたいなあ」
「その氏族長にはどこに行けば会えますか?」
「あの奥の大きなテントだよ」
村人はそう言って指をさして教えてくれた。
「ありがとうございます! 氏族長と話して、きっとここで竪琴や歌を御披露できるよう、頼んで来たいと思います。馬はどこにつなげばよろしいでしょうか」
「馬か……、もし滞在を許されたなら、氏族長のところで預かってもらえるよ」
「そうですか、色々と有難うございました」
そう話して馬を引きながらマレルとサーテルコールは歩いて、その氏族長のテントへと向かった。