詩は世界を変える

文字数 963文字

 その日たっぷりと睡眠を取って、食べる物も食べた二人は、翌日にはマイダスの滝へと向かった。
 歩いて行ける距離で、半時くらいで着くと言う。
 サーテルコールの為に医者へ走った夜とは違い、片側に見える湖は空を映して青く輝き、木々は紅葉して赤や黄色に色づいていた。

 湖を囲う林を抜けて、赤く色づいた木々を見ながら道なりに奥へと進む。
 しばらくすると、どっどっ、という腹の底まで響く大きな音が聞こえてきた。

「あれが滝の音なんですか?」

 サーテルコールはマレルに聞く。

「ああ、そうだ。ほら、見えてきた」

 マレルがそう言うと、視界いっぱいに大きな滝が現れた。
 横幅もあるし、縦も長い。どうどうという水の音が怖いくらいだ。
 高い所から落ちる水は勢いをつけて、サーテルコールたちがいる位置にある滝壺へと落ちて行く。
 水は渦をまき、息をするのも忘れるくらいの大自然を感じた。
 水に落ちている葉がくるくると水の上で踊っている。
 二人は感無量になってその滝を見ていた。

「この滝の(うた)をつくるのも悪くないな」
「ええ、良い(うた)になると思います」
「よし、じゃあ、お前がつくってみろ」
「え? 私ですか?」
「作り方も教えてやる」
「はい! よろしくお願いします!」

 マレルは滝に視線を移して言った。

「だからもう少し、俺についてろ」
 
 一瞬、何を言われたのか、サーテルコールは考えた。
 そして何か嬉しくなってマレルをみた。
 マレルは続ける。

「竪琴の腕もまだまだだし、歌もまだまだだ。先の事は後で考えればいい」
「はい!」

 マレルとサーテルコールはそれからしばらくマイダスの滝を観ていた。

「ところで師匠?」
「なんだ」
「歌を歌うと咳が出る理由ってなんだったんですか?」
「ああ……それはまた、その時がきたら教えてやる」

 いずれな、と言ってマレルはサーテルコールを見て微笑んだ。



 どこに行ってもそれ相応の(うた)がある。

 初夏の新緑
 天空の雲海
 広大な大地
 この水の流れ

 こころが浄化されるような詩。

 世界中が(きら)めいて、それは声高く歌うべき、詩になる。

 そしてそれは、人の世界を変える魔法のような(うた)なのだ。


~END~
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