歌の練習2
文字数 2,017文字
雲海から帰ってきたサーテルコールはマレルが起き出していたので声をかけた。
「おはようございます、師匠」
「おはよう。ああ、良く眠れた」
マレルは大きくのびをして、そのまま柔軟体操を始める。
「サーテはもう柔軟と腹筋、背筋運動はやったか?」
「まだです、すみません、今からやります」
「ああ。これは朝の習慣にしとけよ」
「はい」
あらかた体操を終えて、二人はデクタル村長に挨拶に行った。
さっき一緒に帰ってきたセンティも家にいた。
「顔を洗ったら、朝食じゃ。今日は午後からも祝いの宴がある。わしの娘の門出を祝う宴じゃ。二日続けての宴もいいのう」
ひげを撫でながらデクタル村長は、呑気にそんな事を言った。
「宴は午後からじゃから、その時にまた歌ってくれぬかのう、マレル」
「ええ、喜んで。それと頼みがあります」
「なんじゃ」
「宴が午後からなら、俺たちは少し村の外へ出ててもいいですか?」
「ほう、なぜじゃ」
「サーテに歌の練習をさせたいのです。邪魔にならないように村のはずれか、外でやります」
デクタル村長は微笑した。
「師匠らしくなったのう」
「ええ、まあ、一応……」
マレルは少し照れてデクタル村長から目をそらした。
午前中いっぱい、時間をもらったサーテルコールとマレルはさきほどサーテルコールがいた雲海の見える場所まで行って、歌の練習を始める事にした。
「よし、じゃ、初めは体をほぐして」
そう言われ、サーテルコールは御馴染になった体操を軽くする。
体がほぐれてきたところで、顎をひき、腰を少し前に、背筋を伸ばす。
歌う姿勢だ。この姿勢を保つ為に背筋が必要になる。正直、かなり辛い姿勢だ。
「今回はこの竪琴の音と同じ声を出してみろ。どこまで声がでるか、みてみる」
マレルは竪琴を低いドレミから順に弾いていった。それに合わせてサーテルコールは声を出していく。彼女の声は女性のもつ、一般的な音域だった。
「サーテ、お前はアルトだな。でも無理に声を出そうとするなよ。自分の出る範囲の声で歌え。練習を続けていけば、音域もひろがってくる」
「才能あるってことですか?」
「そんな事は言ってない」
また無表情でバッサリと切られた。
少しめげたサーテルコールだったがすぐに真剣な顔になる。
「良い声っていうのがどういうものか、分かるか」
「綺麗な声って事ですか?」
「それもある。だが、例をあげると、無理が感じられない、潤いと艶がある、芯がある、心地よい、声量がある、簡単に言ってもこれくらいある」
「難しいですね……」
「いきなりこういう声を目指せとは言わないが、今は知識として頭にいれておけ」
「はい」
「それと今まで俺が歌った曲で覚えているものはあるか?」
「はい、海の神の詩を覚えています。海辺の街で沢山歌ってましたから」
「それじゃそれでいい。その旋律をハッハッハッと腹から声を出して一曲分歌う練習もしておけ」
「はい」
「もう一度竪琴にあわせて声を出してみろ」
サーテルコールは口を開けて声を出した。
のどを開いて、腹から声をだして。胸に響かせるように。
マレルは竪琴で、サーテルコールの音域に合わせて竪琴の音を出した。
「息を吐く強さを調節して音の高低をつくれ。体から声を出す感覚だ。体、息、声と流れる感覚で」
サーテルコールは必至にマレルの言うとおりにしているつもりだが、言っている事も難しく、自分でやってもいまいち感覚がピンとこない。
これでいいのかも分からない。
マレルの射ぬくような視線が痛かった。
自分はちゃんと歌えているだろうか?
これじゃダメなんじゃないだろうか?
音はちゃんととれているだろうか?
「余計な事は考えるな。歌う事だけに集中しろ」
また見透かされ、サーテルコールの心は少ししぼんだ。
なんで師匠は自分の考えている事が分かるんだろう、と思う。
「今日はここまででいいか。また今度やろう。残りの時間は竪琴を教えてやる」
「はい」
「うたの自主的な練習はちゃんとしておけよ」
「はい! 有難うございました」
サーテルコールはマレルに頭を下げる。
そしてぽつりと聞いた。
「師匠」
「なんだ」
「師匠はなんで私の考えている事が分かったりするんですか?」
「ああ……」
マレルは少し言い淀んだ。そして顎に手をあててサーテルコールを見た。
「まあ、サーテは単純だからな。だからなんとなく」
無表情でまたバッサリと切られた。
「なんか、今、少し傷つきました……」
「傷ついている暇なんてないだろう。やる事は一杯あるんだ」
「そうですね……」
「じゃあ、竪琴をだせ」
マレル師匠はこういう人だ。とほほ、と声が聞こえそうな表情をサーテルコールはしていたが、急いで自分の竪琴を用意した。
「おはようございます、師匠」
「おはよう。ああ、良く眠れた」
マレルは大きくのびをして、そのまま柔軟体操を始める。
「サーテはもう柔軟と腹筋、背筋運動はやったか?」
「まだです、すみません、今からやります」
「ああ。これは朝の習慣にしとけよ」
「はい」
あらかた体操を終えて、二人はデクタル村長に挨拶に行った。
さっき一緒に帰ってきたセンティも家にいた。
「顔を洗ったら、朝食じゃ。今日は午後からも祝いの宴がある。わしの娘の門出を祝う宴じゃ。二日続けての宴もいいのう」
ひげを撫でながらデクタル村長は、呑気にそんな事を言った。
「宴は午後からじゃから、その時にまた歌ってくれぬかのう、マレル」
「ええ、喜んで。それと頼みがあります」
「なんじゃ」
「宴が午後からなら、俺たちは少し村の外へ出ててもいいですか?」
「ほう、なぜじゃ」
「サーテに歌の練習をさせたいのです。邪魔にならないように村のはずれか、外でやります」
デクタル村長は微笑した。
「師匠らしくなったのう」
「ええ、まあ、一応……」
マレルは少し照れてデクタル村長から目をそらした。
午前中いっぱい、時間をもらったサーテルコールとマレルはさきほどサーテルコールがいた雲海の見える場所まで行って、歌の練習を始める事にした。
「よし、じゃ、初めは体をほぐして」
そう言われ、サーテルコールは御馴染になった体操を軽くする。
体がほぐれてきたところで、顎をひき、腰を少し前に、背筋を伸ばす。
歌う姿勢だ。この姿勢を保つ為に背筋が必要になる。正直、かなり辛い姿勢だ。
「今回はこの竪琴の音と同じ声を出してみろ。どこまで声がでるか、みてみる」
マレルは竪琴を低いドレミから順に弾いていった。それに合わせてサーテルコールは声を出していく。彼女の声は女性のもつ、一般的な音域だった。
「サーテ、お前はアルトだな。でも無理に声を出そうとするなよ。自分の出る範囲の声で歌え。練習を続けていけば、音域もひろがってくる」
「才能あるってことですか?」
「そんな事は言ってない」
また無表情でバッサリと切られた。
少しめげたサーテルコールだったがすぐに真剣な顔になる。
「良い声っていうのがどういうものか、分かるか」
「綺麗な声って事ですか?」
「それもある。だが、例をあげると、無理が感じられない、潤いと艶がある、芯がある、心地よい、声量がある、簡単に言ってもこれくらいある」
「難しいですね……」
「いきなりこういう声を目指せとは言わないが、今は知識として頭にいれておけ」
「はい」
「それと今まで俺が歌った曲で覚えているものはあるか?」
「はい、海の神の詩を覚えています。海辺の街で沢山歌ってましたから」
「それじゃそれでいい。その旋律をハッハッハッと腹から声を出して一曲分歌う練習もしておけ」
「はい」
「もう一度竪琴にあわせて声を出してみろ」
サーテルコールは口を開けて声を出した。
のどを開いて、腹から声をだして。胸に響かせるように。
マレルは竪琴で、サーテルコールの音域に合わせて竪琴の音を出した。
「息を吐く強さを調節して音の高低をつくれ。体から声を出す感覚だ。体、息、声と流れる感覚で」
サーテルコールは必至にマレルの言うとおりにしているつもりだが、言っている事も難しく、自分でやってもいまいち感覚がピンとこない。
これでいいのかも分からない。
マレルの射ぬくような視線が痛かった。
自分はちゃんと歌えているだろうか?
これじゃダメなんじゃないだろうか?
音はちゃんととれているだろうか?
「余計な事は考えるな。歌う事だけに集中しろ」
また見透かされ、サーテルコールの心は少ししぼんだ。
なんで師匠は自分の考えている事が分かるんだろう、と思う。
「今日はここまででいいか。また今度やろう。残りの時間は竪琴を教えてやる」
「はい」
「うたの自主的な練習はちゃんとしておけよ」
「はい! 有難うございました」
サーテルコールはマレルに頭を下げる。
そしてぽつりと聞いた。
「師匠」
「なんだ」
「師匠はなんで私の考えている事が分かったりするんですか?」
「ああ……」
マレルは少し言い淀んだ。そして顎に手をあててサーテルコールを見た。
「まあ、サーテは単純だからな。だからなんとなく」
無表情でまたバッサリと切られた。
「なんか、今、少し傷つきました……」
「傷ついている暇なんてないだろう。やる事は一杯あるんだ」
「そうですね……」
「じゃあ、竪琴をだせ」
マレル師匠はこういう人だ。とほほ、と声が聞こえそうな表情をサーテルコールはしていたが、急いで自分の竪琴を用意した。