飛び立った鳥
文字数 1,480文字
銀色の竪琴を調弦しながら、マレルは何の詩 を歌おうか、考える。
そしてやはりこの庭のような緑あふれる詩 を歌おうと思った。
竪琴から以前と同じような、草の香りが匂い立つような旋律が流れだす。
それに重なるようにしてマレルの声が響いた。
”美しき方 その涙は緑を映し 花々を映す
見えるものは美しいが 見えないものは悲しい
嘘をつかないで この緑の木々の間で眠れ
悲しい想いを眠らせて 美しい夢をみて“
マレルの声が響き渡る。ざっと風がふいた。
さわさわと緑の葉や花々がその風に揺れる。
目をつむってリストレーゼはその詩をかみしめるように聞いていた。
「美しい夢……そんなものを私が見てもいいのかしら」
独り言のような言葉にマレルは無言で答える。
しばらく余韻に浸っていたリストレーゼは、何か悪戯っぽい笑みを見せてマレルに礼を言った。
「ありがとう。私、なにか今の詩でふっきれたような気がするわ」
「そうですか」
マレルは心から笑みを見せてリストレーゼを見た。
その後、マレルとサーテルコールはリストレーゼの屋敷を出て、海辺の街でしばらく稼いでいた。
ある日の朝、新聞を買いに行ったサーテルコールはその小さな見出しに目を引かれた。
それは地方版の部分で、大商人サミュエル・ランバールとリストレーゼ夫人が離婚したという知らせだった。
リストレーゼは離婚したのだ。彼女達の記事は、その他の事は書いていなかった。
『美しい夢……そんなものを私が見てもいいのかしら』
最後の日に聞いたリストレーゼの言葉がよみがえる。
彼女はもう籠の中の鳥ではない。その空が危険に満ちたものでも、飛び立った。
美しい夢があるかはわからないが、それが彼女の望みだ。
その記事を読んだサーテルコールは『これで良かったんだ』と思った。
彼女は飛び立つべきだった。
その後押しをしてくれたのが、マレルの詩だ。
サーテルコールの時と同じように、マレルの詩がリストレーゼを空へと飛び立たせた。
思えば、サーテルコールはマレルの詩を初めて聞いた時、彼の詩に『浄化』された、と思った。
そう、『浄化』。この人の詩は人の心を浄化できる。
マレルの詩の力はそれなのだ。
やはり彼は詩の天才だ。
サーテルコールは感慨にふけった。そして、マレルに新聞を届けるために、足を宿へと向けた。
宿についたサーテルコールは食堂でコーヒーを飲んでいたマレルに新聞を渡す。
新聞を読んだ彼はコーヒーを飲みながら、「やはりな」と呟いた。
「知ってたんですか」
「まあ、時間の問題だとは思っていた」
そしてマレルはサーテルコールに諭すように言った。
「歌うたいは人の悲しさが見えてしまう職業なんだ。俺はそう思う。それでも俺の詩で気が休まる人々がいるのなら俺はそれを誇りに思う」
そう言ってコーヒーをまた一口のんだ。
「サーテはどうして歌うたいになりたいんだ?」
そう言ったマレルにサーテルコールは微笑んだ。
「私も師匠と同じことを考えたからです」
初めてマレルの詩 を聞いて、救われた自分。
それをまた他の人へ伝えていければ。
詩 で救われる人がいるのなら。
自分は歌うたいになりたいと思う。
リストレーゼは幸せをつかむ為に彼女なりの一歩を踏み出した。
マレルの詩 は道を指し示す奇跡。
詩 は世界を変える。
~第一章 新緑の庭 おわり~
そしてやはりこの庭のような緑あふれる
竪琴から以前と同じような、草の香りが匂い立つような旋律が流れだす。
それに重なるようにしてマレルの声が響いた。
”美しき方 その涙は緑を映し 花々を映す
見えるものは美しいが 見えないものは悲しい
嘘をつかないで この緑の木々の間で眠れ
悲しい想いを眠らせて 美しい夢をみて“
マレルの声が響き渡る。ざっと風がふいた。
さわさわと緑の葉や花々がその風に揺れる。
目をつむってリストレーゼはその詩をかみしめるように聞いていた。
「美しい夢……そんなものを私が見てもいいのかしら」
独り言のような言葉にマレルは無言で答える。
しばらく余韻に浸っていたリストレーゼは、何か悪戯っぽい笑みを見せてマレルに礼を言った。
「ありがとう。私、なにか今の詩でふっきれたような気がするわ」
「そうですか」
マレルは心から笑みを見せてリストレーゼを見た。
その後、マレルとサーテルコールはリストレーゼの屋敷を出て、海辺の街でしばらく稼いでいた。
ある日の朝、新聞を買いに行ったサーテルコールはその小さな見出しに目を引かれた。
それは地方版の部分で、大商人サミュエル・ランバールとリストレーゼ夫人が離婚したという知らせだった。
リストレーゼは離婚したのだ。彼女達の記事は、その他の事は書いていなかった。
『美しい夢……そんなものを私が見てもいいのかしら』
最後の日に聞いたリストレーゼの言葉がよみがえる。
彼女はもう籠の中の鳥ではない。その空が危険に満ちたものでも、飛び立った。
美しい夢があるかはわからないが、それが彼女の望みだ。
その記事を読んだサーテルコールは『これで良かったんだ』と思った。
彼女は飛び立つべきだった。
その後押しをしてくれたのが、マレルの詩だ。
サーテルコールの時と同じように、マレルの詩がリストレーゼを空へと飛び立たせた。
思えば、サーテルコールはマレルの詩を初めて聞いた時、彼の詩に『浄化』された、と思った。
そう、『浄化』。この人の詩は人の心を浄化できる。
マレルの詩の力はそれなのだ。
やはり彼は詩の天才だ。
サーテルコールは感慨にふけった。そして、マレルに新聞を届けるために、足を宿へと向けた。
宿についたサーテルコールは食堂でコーヒーを飲んでいたマレルに新聞を渡す。
新聞を読んだ彼はコーヒーを飲みながら、「やはりな」と呟いた。
「知ってたんですか」
「まあ、時間の問題だとは思っていた」
そしてマレルはサーテルコールに諭すように言った。
「歌うたいは人の悲しさが見えてしまう職業なんだ。俺はそう思う。それでも俺の詩で気が休まる人々がいるのなら俺はそれを誇りに思う」
そう言ってコーヒーをまた一口のんだ。
「サーテはどうして歌うたいになりたいんだ?」
そう言ったマレルにサーテルコールは微笑んだ。
「私も師匠と同じことを考えたからです」
初めてマレルの
それをまた他の人へ伝えていければ。
自分は歌うたいになりたいと思う。
リストレーゼは幸せをつかむ為に彼女なりの一歩を踏み出した。
マレルの
~第一章 新緑の庭 おわり~