水辺の観光地へ

文字数 2,029文字

 草原の民の集落から帰ってきたマレルとサーテルコールは、織物屋のレイニスの元へ行く。羊毛の絨毯を宝石払いにしてもらうためだ。
 朝起きて歌う為の体操をし、朝食を摂る。
 そして朝一番にレイニスの店へと出かけた。

 木造建築の温かみのある建物、その壁に沢山の織物が展示してある。反物になったものも壁の脇に重ねてあった。
 いつもの通りにカウンターの奥で安楽椅子に座るレイニスにマレルは声をかけた。

「レイニスさん、来ましたよ」

 レイニスはまたうっすらと目を開け、マレルとサーテルコールを確認した。

「おお、マレルとその嫁か」
「もう、否定する気も本当は起きないですが、一応言っておきます。違います!」
「昨日の羊毛の絨毯の宝石払いだな?」

 やっぱりレイニスは聞いていなかった。

「ちょっとまってろ」

 レイニスは店の奥へと入ると黒い袋を六つ用意して来る。
 
「またルビーですか?」
「今度はサファイアとエメラルドにしておいた。同じものばかり売っても価値が下がって安く換金されてしまうかもしれんしな」
「考えてくれているんですね。有難うございます、レイニスさん」

 マレルは感謝を込めてレイ二スに礼を言った。

「ほれ、確かめろ」

 そう言われ、黒い袋を開けてマレルは宝石を確認する。
 サファイアが三つ、エメラルドが三つ、入っている。

「たしかに」
 
 そう言ってふところにしまった。

「じゃあな、また来いよ、わしが生きているうちにな」

 レイニスにそう言われ、マレルは少し切ない気持になった。
 レイニスはいつも店に来ると寝ているようになった。それは歳を取ったという事だ。
 マレルが初めてレイニスにあった時、すでに彼は結構な歳だった。
 それからさらに年月がたっている。レイニスの体も少し心配だ。

「心配しなくてもレイニスさんは百まで生きますよ」

 軽口を叩いてマレルはレイニスの肩を抱いた。

「また近いうちに来ます。そうしたらもっと買い取り金額をはずんで下さいね」

「かっかっかっ。言うようになったじゃないか、マレル。そうさな、わしは百まで生きるぞ」

「じゃあ、また今度」
「嫁さんを大事になー。かっかっかっ」

 レイ二スの言葉を聞きながら、店の扉を閉める。

「やっぱりあれはわざとだろ……!」
 
 すこし切なくなった自分がなんだか馬鹿らしくなった。 
 しかし、レイ二スの元気な笑い声を聞き、マレルは少し安心もするのだった。

「わざとでもそうじゃなくても、レイニスさんがずっと元気で仕事をしてくれればいいですね」

 サーテルコールはもう慣れた様子だった。サーテルコールの言葉にマレルも同感だ。

「それもそうだな」

 レイ二スはマレルをからかうくらい元気がいいのが、ちょうどいいのだ。



「さて……今回はちょっと遊ぼうか」

 マレルはサーテルコールに言う。

「遊ぶ……何をするんですか?」

「と言っても仕事ついでにマイダスの滝でも見に行こうと思ってる」
「マイダスの滝?」
「王都の西にマイダス湖という湖がある。山から流れている川が王都の西のくぼ地にたまったんだ。その川から湖に入るところに大きな滝がある。それがマイダスの滝だ」

「滝……ですか。童話の絵本の中でしか見たこと、ありません」
「俺は一度見た。凄いぞ。マイダス湖にそそぐアース川は川幅がすごく広い。それが一気にマイダス湖にそそいでいるんだ。マイダス湖からは今度はまた下流のアース川に流れ出る。マイダス湖は常に水が流れている湖だから、水が綺麗だ」

 サーテルコールの頬が紅潮した。そんなところもあるのか、と期待でわくわくする。

「いままでも綺麗な場所には行きましたが、遊びで行くのもいいですね!」
「半分、な。一応、一、二回くらい、公演はするつもりだ。あんまり歌わないと声の調子が出なくなるしな」

「で、そこまではどうやって行くんですか?」
「観光地だからな。王都からまたマイダス湖まで馬車が出てる。それに乗ればいい」

 マレルも少し上機嫌だった。
 なんせ、タンダル織と羊毛の絨毯で宝石にして七個分のもうけが出来たのだ。懐は暖かいし、その分心に余裕もある。しかも絨毯は現金払いにしたので、マレルたちは今宝石を九個もっている。
 宝石九個分はマレルたちの九カ月分の生活費だ。

「じゃあ、用意をして明日にでも行きましょう」
「そうだな。今日はまた何か、うまいもんでも食べるか」
「あ、私、もう一度カフェに行きたいです。前に行った時は冷たい水だけしか飲んでなかったから。生ジュースを飲んでみたいですね!」
「いいな、それ。俺も飲みたくなってきた」
 
 二人の顔は緩んでいる。
 そういう事で、マレルとサーテルコールは夕飯前にカフェへと寄って、生ジュースを飲んだ。そして夕飯を食べ、宿へ戻り、その日は早めに就寝した。

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